為政者の理想と現実 総合と乖離
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「巧みな作戦も政治的判断の結果生じた根本的な過誤を埋め合わせることはできない」
章ごとに支配層を結束 分裂させてきた要素を
風土 人事 信条 版図が発してきたメッセージとして
具体的にどう手を尽くしてきたか
何が足りなかったかを詳述している
戦争は自軍が有利な時機に機先を制さなければ勝てないこと
ローマでは凶暴は忌まれなかったが
ポエニ戦争では慎重に現実的にローマは勢力を温存していき
天才ハン二バルに勝てたこと
リンカーンは軍事については短期間しか勉強していなかったが
的確な作戦計画を立案できたこと
イギリスの党利党略
アメリカのフェデラリストとリパブリカンの争い
第一次世界大戦に至る 統一されたばかりの
プロイセンもイタリアも政治と軍部が
協議 調整できていなかったこと
スペインの狂信 フェリぺ二世は
神の奇蹟を信じきっても実戦経験がなかったこと
フランスの知性と無限界 ルイ十四世は地方に至るまで
人事権を掌握 監督 中央集権を強化し
最新の築城技術もとり入れたが
国庫を破綻させたこと
プロイセンは歴史など長期的な視野を軽んじ
最新技術を偏重し 国民を押さえつけ動員
しようとしたが実態を無視しすぎて
軍の目標は達成できなかったこと
一般的に言われている国民性ならではの成功と挫折が
論述されている
「単なる理論の適応には 現実は はるかに捉えがたく複雑
理論は研究方法の提示程度」
イメージの爆発 知能と教育の盲点 過去でも理性でも読み取れなかった
強弱の政治 軍事版である
国家戦略のバイブル。日本のサバイバルのためにも一読を。
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国家戦略とは何であろうか。明確に答えられる人はいない。クラウゼヴィッツや孫子はあくまでも戦争戦略を語っている。リデルハートのように、政治目的のための軍事的手段を適用するアート、と言葉で定義しても狭すぎる。戦略は、地理的要因はもちろんのこと、政治体制、国民のエトスや文化・人口、経済やテクノロジー、そして時として複数の意思決定者の妥協の産物として形成されていく。
本書では、国家戦略の定義を明文化するのではなく、各国家がその時代に採用した戦略形成のプロセスを詳細に追っている。戦略形成の様々な歴史的プロセスを詳細を詳細に検討することは、過去に学び、現実の国家戦略に生かすための基礎力を養うに不可欠であろう。
本書では、時代と国が異なる章ごとに専門家が記載しているので、その分野での卓越した視点を共有出来ることは、望外なる喜びであった。非常に面白い。時間はかかったが夢中で読んだ。
上巻では、ベロポンネソス戦争におけるアテネ、ローマの対カルタゴという古代から、ハプスブルク家によるスペイン支配、ルイ14世時代のフランス、アメリカの独立から南北戦争、そして第一次大戦に関してはドイツ、イギリス、イタリアの立場から記載している。下巻は第一次大戦後を描いているようで読むのが楽しみだ。
歴史的側面からもおもしろい
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各時代の各国の戦略についての分析論。なかでも明の騎馬民族に対する認識は、驚くばかりである。戦略論にたいして全く無知な私でも、歴史の別分野からの考察として、おすすめ一冊である。
最も機微な意思決定
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偶然に手に取った著作。いわゆる戦争を扱う著書だが、戦争計画という意思決定の形成に影響を与える要因と、実際に戦争を遂行する際に影響した要因とに分析の重心を置いているところが、普通イメージする戦争本とは印象が違う。経営学の著書にどこか似ている感じがある。
主題とは違うが、取り上げられているギリシア・ローマ・明王朝・16世紀スペインなどの事例が、その時代の芸術・文化・思想などについての理解を重層的にしてくれる効果がある。それこそ軍事的な要素が一つの環境としてほかの分野に影響を与えたり制約を与えていることが想起できるし、反対にその時代の考え方の典型、イデオロギーが戦略形成を制約している様子も、この上巻で何度も指摘している。
そしてなによりも、この上巻全体で繰り返されているのは、何が可能だったかというより、何が各時代の意思決定を限界付けていたのか、ということだ。どうも、軍事行動では技術的限界、財政的限界、組織的限界、政治的限界、人間の能力的限界と、無理な部分がほかの分野より露骨に明らかになるように思えてくる。そんな無理筋を押し通そうとして失敗してしまう描写が、何度も何度も反復して登場する。その失敗は、結局は多数の人命の損失に帰着することになっている。
軍事戦略が最も機微な意思決定であることを思わせてくれる一冊。
歴史を知るってことは戦争を知るってことだ
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この書籍の前書きを少し引用してみよう
「本書の各論文は、一九八五年から八六年にかげてアメリカ海軍大学で行われた
戦略と政策に関する多くの有識者の公式および非公式の議論から生まれたもので
ある。
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したがって、本書の目的は、学説を伝えることではなく、国家戦略の形成や結果
に影響を与える多様な要素を読者に紹介することである。政策決定者が直面して
いる問題に対して正しい解決策を提供することはできないが、歴史は政策決定者
が何を問いかけるべきかを示唆してくれる。」
何故米国にオレンジプランを初めとする戦略を構築する動機があるのかなど、米国の
世界観が表現されていると同時に、2500年前からの歴史書の記述に埋もれていた、その
政策決定について教えてくれる。トウキュディデスの戦史など歴史書の読み方としても
おもしろい。戦史など、ただボンヤリと時系列で読むのではなく、読む目的が明快なら
ここまで読み取れるのだって事に驚かされる。
軍とひと言で言っても天と地ほど違う・・・。日本人による戦略本など比較にならない
よさがあります。