柳生へ、祝生誕500年
★★★★☆
武田信玄と伊勢守を対比させながらの前半から、柳生へと新陰流を伝える後半へ。伏線となっている千丸十河九郎兵衛との剣に対する考え方の違いへの決着へと物語は進む。池波小説では、この小説の上巻での伊勢守と於富との出来事のように、人物を描き出せる場面の記述が多いが、せっかくの柳生宗厳への奥義の伝承にかかわる場面が少なすぎる。剣の流派の祖としてでなく、兵法の祖として描きたいという著者の意図によるものなのかもしれない。
伊勢守は来年(2008年)生誕500年。NHKの大河ドラマ「風林火山」の信玄、勘助、謙信と同時代に活躍している。井上靖の小説とともに読んでみて、この時代の関東地方の様子に思いをめぐらせるのも一興。