語られる言葉に身をゆだねて読んでみる
★★★★☆
一風変わった薬屋の主と、そこに移り住んだ女性や、町の住人との物語。最後はファンタジーの要素が入り混じる不思議なお話。タバサという名の薬屋(主はその名の独身の老女)に住んでいる山崎由実は、何らかの過去を持ち、ここに身を寄せている。話は薬屋にやってくる人々とのあれこれ、そして驚愕のラスト(決して嫌なものではない)へと進んでいくのだが、その言葉遣いが心地よい。
タバサの処方する薬は「よく効いて、楽になれて、予定が立つ」もので、頼りにする人も多い。中には妊娠検査薬を買い求める女子生徒もいるのだが、売るだけでお終いとはせず、いつでも彼女が相談に来れるような雰囲気を作っている。「案外、いろいろなものは、つながっている」という町についてタバサは、「ここで生きていくコツを教えてあげようか。誰のことも、気にしないことだよ」という。つかず離れず、町の人とベッタリとは付き合わず、そこそこの距離を保っているタバサ。
話のキーとなるのは、この町の人々は人が亡くなっても葬儀をしないこと、三種類の煮豆、自転車屋のおやじや、マサヤという不思議な存在、タバサの母が亡くなったときのこと、実は由実がタバサに処方された薬を飲んでいなかったことなど。こういうものすべてがあってこそのラストへ・・・。
濃縮な時間の流れる物語
★★★☆☆
現実の世界なのか、現実と夢の狭間の世界なのか、
読んでいくうちにわからなくなる。
薬屋のタバサと呼ばれる男の家に世話になっている女ゆみ。
どういう経緯でそうなったのかなどはどこにも説明されず
あいまいであやふやなままで物語は進む。タバサの薬は
命の調節が出来るのか?ゆみはどういう素性の女なのか
どこからきたのか?などなぞはなぞのまま終わる。
どうなるのかなと気になりながらも、なんだか息苦しい物語だった。
東さんの物語はひょうひょうとした面白い感じの話と
シリアスで息苦しい話とあるなぁと思う。こちらは隙間のない
ぎゅうっと色々なものが集約された話だった。私はひょうひょうとして
面白い感じの物語のほうが好きなので★は3つ。
恐れと癒やし紙一重の物語です
★★★★★
読者であるわたし自身が、かつて入り込んでしまった、この町では無い町のことを思い返してしまう不思議な読後感。
過ぎ行きはすべておぼろで、ここ今のことに混じり合いながら、さらに不可思議を増してゆきます。
町とは、人がこころの中にもつ隠れ里、あるいは共に住む人自身が自分にとっての隠れ里かもしれないですね。
東直子さんの妖しい一面が全開した小説です。