貴重な河合栄治郎本
★★★★★
河合栄治郎を新書版で世に出されたのはヒットである。出版社や編集担当者そして著者に敬意を表したい。この昭和戦前の自由主義的知性を持った学者は、もっと世に知られてよい人である。
河合栄治郎が受けた新渡戸稲造の影響は興味深い。そして何より5.15事件や2・26事件への思いは正統的な知識人のセンスがよくわかる。天皇機関説排撃へのコメントも、あの時代への警告となっている。
著者には「枢密院と思想問題」という読み応えのある論文がある。昭和初期の枢密院における思想論議等を論じたものであるが、平沼騏一郎小論ともなっているものである。
今後、たとえば著者が平沼騏一郎らと河合栄治郎らとのコントラストを描くことがあれば読みたいと思う。昭和初期の様々な思想事件への対応を読むと、前者は帝国憲法を蹂躙した側であり、後者はそれに反論した側である。著者ならこの点から昭和初期を−昭和史の売文屋と違い−客観的に分析してくれるのではないか。