高野文子初の単行本。1977年から81年に発表された17の短編をまとめたもの。死を迎えた少女が観音とともに「祝い」の支度をする「ふとん」。「ただなんとなく」自殺を図る少年を描いた表題作の「絶対安全剃刀」。傍若無人な姉と賢い弟のシニカルなおとぎばなし「アネサとオジ」。「女の子」扱いされることに激しく反発する女子大生を描く「うしろあたま」。静かでありながら、ざわざわと心が揺れるような秀作が並ぶ。
特に強い印象を残すのは、「田辺のつる」(1980年)だ。老いて、気持ちが少女時代に戻ってしまった82歳の老女「田辺つる」を、高野はかわいらしいおかっぱ頭の少女の姿で描いてみせる。孫の部屋から追い出され、ドアの向こうから「こわいのー あけてー」と舌足らずな調子で許しを乞ううち、突然「あなた はやまったことしないでください 私達どうしたらいいんですか」「あけてください!」と不穏なセリフを放つ、つる。このシーンには閉じられたドアとセリフだけでつるの姿は描かれてはおらず、読者の頭には82年という重みを持った老女の存在が、ふいに生々しく浮かび上がる。
意外な場面を意外なアングルから切り取った独特の構図は、初期作品から見ることができる。人物などの絵柄は少女漫画風に細かく描きこまれたものと、少ない線ですっきりと描かれたものとが混在しており、作品ごとに印象は大きく異なる。高野作品のスタイルが確立される前の試行錯誤の様子がわかる、貴重な短編集だ。(門倉紫麻)
お見事!
★★★★★
『田辺のつる』…高齢者に関わる仕事をしている人、介護をしている人、是非読んで下さい。
見事です。
彼女の作品はこれが初めてです。
色んな評価があると思います。
でも、この『田辺のつる』のためだけにこれを買っても損しません。
私は、そんな1人です。
あの世からみてるみたい
★★★★★
意地悪なんだけど、どこかやさしい視点は
まるであの世からこの世を眺めて笑っているようにみえる。
一コマ一コマの構図、線の美しさは
この本を開くたびに常に新しい気付きをあたえてくれる。
大好きです
★★★★★
高野文子さんの作品ははほかのマンガと比べることができないくらい飛びぬけてセンスが良い。
中でもこの作品は大好きです。
最近のマンガブームでもいまいちピンとくる作品に出会えない方、ぜひ読んでみてください。
後世に残る作品
★★★★★
19歳のとき、この本が読みたくて読みたくて書店を探し回った。見開き1ページを使った たあたあたあと という作品は、漫画っていうより絵本って感じなのに、たった5ぺージの作品そのパワーに圧倒された。漫画ってこういうことが出来るんだ ってその当時感激した記憶がある。その後も 花 はいー背筋を とマシンガンのように作品が続く。何度も読み返した。
高野さんは、この作品を 今読むと青臭く恥ずかしい とインタビューで言ってたけどその青臭さを吹き飛ばす攻撃的パワーがこの作品にあると思う。
大友克洋さんが 癒し系だと評価されている るきさんを 攻撃的で悪意があるって言ってたけど(さすが大友さんだ)漫画であり 音楽であり 表現てのは攻撃的な面がなければ受け手の心情を動かせないのではないだろうか?黄色い本などは素人がもはや口などはさめない。
早く新しい作品を出してほしい。
純文学作品集
★★★★☆
1980年前後に発表された短編17編からなる、世評の高い作品集である。絵は多彩かつ芸術的、またその前衛的な内容は、現代でも(一部を除き)古びていない。しかし、読み手を選ぶ作品ばかりであり、万人に勧めることはできない。私には、青春の不安定な心を主題にした作品(表題作含)は合わなかった。一方で、「玄関」のようなリリックな作品は好きである。また、恐るべき感性の賜物「田辺のつる」には、芸術としてのまんがの凄みを見た。
次のうちあてはまる項目が多い人ほど、この作品集に手放しの賛辞を送るのではなかろうか。
1)知的なモノに憧れる人
2)見栄っ張り
3)評論家
4)夢想家
5)革命家
6)すれっからしのまんが読み