コモンズ
★★★★★
左翼、特に労働組合が世界的に時代の流れに乗っていないのは自明。女性の社会参加、子育ての問題などが喫緊の課題なのに、未だにマッチョな労組で何かしようとしても、どの会社でも白ける。そもそも資本主義を倒そうというイデオロギーは現在ではありえない。資本主義の中であるべき社会像を描きたい。では、新たな知的労働者も含めて、労働の新たな運動のあり方はどのようなものがあり得るのか。ここでは「共」を重視している。「私」でも「公」でもない。共とは、ニューイングランドで18〜19世紀に見られたコモンズに近いと感じた。共には個々人の責任が反映される。そんなことを考えながら読み進むと、欧州、ラ米、中東などの話も一貫性が見えて楽しい。
今の社会は何かおかしい。でも民主主義も資本主義も一応、最良の選択肢のように思う。ではその前提で何を目指すべきか、世界は何に向かっているのか。歴史的な意義は何なのか。そんなことを考えたい人向け。
ペーパーバック・コピーライター
★★★☆☆
まず、ネーミングがうまい。この人の『マルチチュード』や『帝国』は有名だが、この本の中でも『マドリッド・コミューン』とか『(階級闘争における)かっての工場の役割を、今は大都市が果たしている』etc、ネーミングはポップで格好いいし、刺激的な発想なのは確かだ。とにかく、格好いいっていうだけで価値がある(笑)。ネグリ氏はとても優秀なコピーライターだと思う。でも、ここでは、ただ、それだけかも(笑)。
この人が言いたいことは要するに「『国』や『個』ではなく『共』を取り戻すことが今後の課題である」らしい。それはそれで結構だが、『共』を無邪気に信じてしまえるナイーブさが僕には不思議でならない。まず、この人の概念では『共』の定義自体が不明瞭で、彼が挙げる例はたとえばトリノのデモ隊や路上の車に火をつけて回ったパリの学生たちだ。もちろん、それはそれでいいけど(笑)、それからどうするの?シアトルで頭の中がとまったまんまやんけ。どのような『共』をどうやって作るかという視点がまったく感じられないのは奇妙だった。そこをネグっちゃだめなのよ(笑)。
Q&A形式でネグリが答える
★★★★★
本書は<帝国>やマルチチュードなどグローバリゼーションにおけるアクティブなオルタナティブを提起しつづけている哲学者、ネグリに対するインタビューです。
まず、本書はその構成が特徴的です。インタビュー形式なので構成がQ&Aの形になっており、ネグリ自身がネグリの思想を解説するという大変理解しやすい文章になっています。既刊の著作の傍らにおいて参考書としても読むことができると思います。またユーゴ紛争やシアトル、ジェノヴァのデモ、サパティスタの蜂起など現実の運動、現実のマルチチュードについての分析と考察がなされており、実践的な内容になっています。活動家にとってはハンドブック的な読み方もできるでしょう。
前半では社会主義の考察を行ないます。単に失敗と片付けるのではなく、その積極的な意味も掬い上げている点が興味深いです。後半はマルチチュードの形成過程を追います。まさに上記のような90年代以降のアクチュアルな問題群を縦横に横切りながら、マルチチュードを立体的にに形成していく様は大変鮮やかです。続く下巻の出版を心待ちにせざるを得ません。
今までネグリを読んできた人にも、これからネグリを読もうという人にもオススメの本です。ぜひ、手にとって見てください。
グローバル時代における対抗運動のあり方。
★★★★☆
原題はGood Bye Mr.Socialism。新自由主義が猛威を振るう前に有力なオルタナティブを提示しえていない各国の左翼・社会主義者に対する批判的問題意識を基に、「帝国」の時代における対抗運動のあり方、グローバル民主主義のあり方を議論する。
聞き手がイタリア人であるために、日本人読者にはなじみのない話題も多々展開されておりわかりにくい部分もあるものの、これからの民主主義のあり方を考える上で刺激的な問題提起がなされており、興味深い。前著『マルチチュード』や、同様の問題意識を掲げるテッサ・モーリス・スズキ『自由を耐え忍ぶ』などとセットで読むとよいように思う。
余談だが、去る08年3月29日の安田講堂におけるネグリ来日プロジェクトは、ネグり本人の来日が日本の入管体制の前に頓挫した。下巻ではその時の主催者の一人であった姜尚中氏による解説がつく。どんな解説になるか。こちらも楽しみにしたい。