たとえば、雲ひとつない空を見上げていたら、まるで底のない湖を覗き込んでいるような気分になって、空恐ろしくなったとします。
しかし、それを一緒に歩いている人に告げても、まったく解ってもらえません。
いくら説明しても解ってもらえない。
そういう感覚の微妙な捉え方は、他人と共有することはむずかしく、
ましてや説明しようとしても、うまい言葉すらでてこないことが大半です。
ところが、やまだないとのマンガを開くと、同じような捉え方が、何でもないことのように描かれていたりします。
私にとってやまだないとというマンガ家は、そういう作家です。
⊿余談ですが、江國香織という小説家にも近いものを感じます。
この『ビューティフル・ワールド』という作品には、何人かの若い男女の日常が描かれています。
彼らは皆、すこし「フツウ」とは違った生活を送っています。
しかし、自由なようでどこか窮屈な日常に時おり目を見張り、
孤独だけれども、そばにいてくれる「誰か」はきっといる、ということに少し安心し、
膨大すぎる長さの「未来」を思って戸惑う彼らは、
とても健全なように思えるのです。
淡々とページがすぎてゆくなかで、彼らは彼ら自身の「明日」を、
ごく自然に自らの手でたぐり寄せていることがわかります。
そして、わたしたちもきっとそうなのだろうなと、ふと思わされるのです。
あからさまにあたたかい言葉を並べた作品ではありませんが、
彼らのゆるゆるとした日常にそまってゆくと、
まるで綿菓子のようにあたたかな自らの日常に気付かされる、
そんな作品です。
脳みそだけが無重力を感じるくらい孤独に疲れてしまったとき、
この作品を手にとってほしいと思います。