まぼろし<初回限定パッケージ仕様> [DVD]
価格: ¥4,935
異能の人、フランソワ・オゾンがこれまでのダークな作風から一転、正攻法の語り口で巨匠の道を歩みはじめた転機的作品、それが『まぼろし』である。マリーとジャンは25年間連れ添った夫婦。例年同様に南仏でバカンスを過ごす2人だったが、何の前触れもなく、ジャンは海に忽然と姿を消してしまうのだった…。
愛する人を失い、孤独をさまよう主人公の喪失感にドラマは濃密に寄り添っていく。台詞を廃した余白の積み重ねが、いっそうの寂寥を誘う。そんな悲しみのただ中に凛としてたたずむ主人公を、シャーロット・ランプリングが円熟の名演でみせる。その視線の演技は、すべての心情を言い表しているかのよう。とりわけ、いるはずのない亡霊としての夫との語らいが印象的だ。海原の轟音がいつまでも心に残るのは、抑制された音楽演出の効果にほかならない。
フランソワ・オゾンが苦手という人にも、お薦めできる作品である。なお、前半は35ミリだが、後半は予算の関係上、スーパー16で撮影されているのだが、これがまた絶妙の効果をあげている。(麻生結一)