サッコはセンセーショナリズムや戦争被害者を食い物にするような表現を決して用いず、客観的なまなざしをむける。彼は読者を秘密の隠れ家に案内し、そこから殺人やレイプの現場をかいま見せる。こうした犯罪行為の詳細は読者の想像にまかせているが、ゴラズデで起きた想像もつかない事態からすれば、きわめて妥当な手法だ。
本書がきわめて衝撃的なのは、サッコが自らをゴラズデの日常生活の中においたからだ。他のジャーナリストは必要な取材を終えるとすぐにゴラズデから去っていった。サッコは毎回、数週間ずつこの町に滞在し、住民の気持ちを肌で感じることができるようになっていた。その時点で戦闘はほとんど終わっていたが、ゴラズデはまだ包囲されており、サッコは友人たちの苦しい戦いを目撃することになった。それは生き延びるためだけでなく、正気を保つ戦いでもあった。
本書は、恐るべき惨事を並べたて、世界諸国の無理解を非難するだけの作品ではない。どんな苦難にも耐えようとする人間の能力を感動的に描き出している。サッコはそこで人間の精神の勝利を称えるありきたりの表現にはまりこむことを拒んだ──ゴラズデの住民たちもそんな表現を受けつけない。『Safe Area Gorazde』は生き残った人間の精神に対する畏敬の念に満ちている。(Peter Darbyshire, Amazon.ca)
--このレビューは、同タイトルのハードカバーのレビューから転載されています。