ところがこの「個人的な」感情は、すっぽり「アメリカ的」感情と重なった。国籍と民族にまつわる、普遍的テーマとなったのである。アメリカは、大多数の「どこか系」アメリカ人(アフリカ系など)と少数の先住民が作る国。国籍はアメリカでも、民族、文化はまちまちだ。その、普段は意識していない、自分の属する文化に対する愛惜の念が、本書との出会いによってあらわになり、多くのアメリカ人(成人たち)の心を熱くした。
本書は、「単一民族」と意識しがちな日本人には一種「踏み絵」的要素を持つ、危険な本でもある。読み手の想像力と感受性の有無が明らかになるのだ。他民族への想像力、外国で生きることへの想像力、そして他者の痛みに対する感受性の踏み絵である。
たとえば暗くした部屋で、家族の思い出のスライドが次々と、白い壁に写し出されていく。ほんのり色がかかった頼りなげな光源が写像をちらつかせる…。スライド写真を居間で見るときのそんな懐かしさがこみ上げてくる本でもある。淡々とした語り口にさらに耳を澄ませば、人間愛がしみじみと、通奏低音のように響いてくる。(おおしま 英美)