内容は全部で7章立て。 第2章までは、タックス・プランニングと租税法が概観され、第3章以降では、代替的貯蓄媒体、生産型組織形態、タックス・クライアンテールとアービトラージ、限界税率の重要性とダイナミックス・タックス・プランニングなど、個別テーマを掘り下げている。また、主要な論点に関するケーススタディーも収められている。
租税戦略を「課税当局を打ち負かすためのハウツー」として示した書物は数多い。しかし本書では、ファイナンス、ミクロ経済学の解法を取り入れ、統合的な手法が採られた。本書の視点は、他のコスト要素を省みず租税債務そのものを減らそうとするものではなく、ボトムラインの極大化という命題を、経営戦略的アプローチを伴って実現することにある。逐次条文解釈的なこれまでの本は、本書に比べると、その汎用性の点からして甚だ色あせて見えよう。
フレームワークの例示に際しては数学的モデルを応用しているので、裏表紙まで一気に読み通してしまえる入門書ではない。しかし、数式は初級レベル程度の数学の素養があれば十分理解できる。公認会計士である訳者は留学時に原書に出あい、そのときの感銘を邦訳の動機と記している。入門書としての気安さはないものの、一歩先んじて税務工学というフィールドに関心を寄せる戦略コンサルタントや金融マンには見逃せない、「MBAテキストの最高峰」である。(任 彰)