初学者が物理を学ぶ際には、えてして道具であるはずの物理数学に青息吐息になってしまい「物理をする」という本質を見失しないがちになる。だが、そもそも物理とは美しい現象や不思議にな現象を「なぜだろう」と問い、そのことわりを理解する学問であり、数学はそのための記述や思考の道具でしかない。
その点、本書は「物理する」ことのおもしろさ、楽しさが実感できる。扱われている内容は主に力学と波動であるが、一般的な物理の教科書のような「縦割り」のカリキュラムではない。ニュートンの3法則の後に相対性理論が出てきたり、波の回折のところにシュレーディンガー方程式が出てきたりと、「型」にとらわれずさまざまな概念が自然に導入されるため、無理なく理解することができる。これは、天文物理学者である著者の物理学への深い理解があるからこそできることだろう。
とてもよい一般向けの物理の解説書であり、物理に少し自身がある人も、本書によって自分の物理的直観を試すことができるだろう。案外、数式だけを理解していて、きちんと理解できていないことを思い知らされるかもしれない。(別役 匝)