本書は、83問のパズルを出題しながら、日常的な物理の話題をやさしく解説した本である。パズルといっても、ひっかけ問題やひらめきパズルなどは一切含まず、本格的な物理の問題をパズル仕立てにしたものばかりである。導入部分に続いて、静力学、動力学とまさつ、地球、流体力学、光と音、熱と電磁気、相対論と宇宙の7部門に分けてパズルを出題し解説を加え、それぞれの部門ごとに全体解説を添えている。
冒頭では「空はなぜ青いか」「鳥かごの中に小鳥がいる状態ではかりに乗せたら、鳥かごの重さをさすか、それとも鳥かごと小鳥の重さの合計をさすか」といった疑問を掲げて、物理への姿勢を解説している。各部門で扱われている題材には、永久機関と紛らわしいものがいくつか出てきたり、地球の自転とコリオリの力やフーコーの振子を取りあげるなど、物理の世界の楽しい話題が満載だ。難易度は、高校の物理を数式を使わずに解説した程度だろう。
日常生活の中で経験する題材もいくつか登場する。たとえば、電車の最後尾から最前部へ車内を歩くとき、電車が加速中、停車中、減速中のどれが楽か、などといった問題は実用的だ。
また、夏目漱石の「我輩は猫である」の中で寒月君が首くくりについて議論する話題について、漱石が省略した方程式を補って解説している部分も興味深い。取りあげる題材は、計測工学から情報工学に近い応用物理の話題がやや少なめではあるが、物理ぎらいをなくすのには適した解説書だ。(有澤 誠)