トラヴィスは決して上機嫌なバンドではない――少なくとも表向きは。結局「Why Does It Always Rain on Me?」を歌ったことで、そんなイメージも薄くなったとはいえ。そんな彼らだけに、『12 Memories』は全編が陰うつな、しかし決して冷酷にはならない諦観に彩られている。前述のシングル曲「Re-Offender」は虐待関係をテーマにしており、アルバム全体のトーンを完ぺきに体現したトラックといえる。おそらくバンドの置かれていた状況が影響しているのだろう。
前作『The Invisible Band』リリース後の2年間に、バンドは解散の危機に見舞われた。ドラマーのニール・プリムローズが事故で重症を負ったのだ。だがプリムローズは――そしてバンドは――健康な状態を取り戻し、サウンドは苦難を経たことでいっそう磨きがかかってきた。また、フロントマンのフラン・ヒーリーはポピュラー・ミュージック界屈指の好人物のひとり。「Peace the Fuck Out」では反戦メッセージを打ち出しているが、怒りよりも切々とした哀願を感じさせる歌声だけに感動もひとしおだ。
レディオヘッドも今すぐに『12 Memories』のようなアルバムをつくるべきだ。親しみやすく感動的でありながら、底には現実社会の不満や妄想が流れているアルバム、それが本作なのである。『12 Memories』はトラヴィスの現時点での最高傑作であり、同時に最高に勇気あるアルバムということで、頭ひとつ抜きん出た存在感を放っている。(Robert Burrow, Amazon.co.uk)