まさに教育大国
★★★★★
本書は教育大国として注目されるフィンランドと並んで、ユネスコが教育モデル国として推奨する国キューバの教育事情をレポートした本です。
全中学校で先進国並の15人学級、競争ではなく学生同士の相互教育で運営される学習環境、ヴィゴツキー理論による相互作用を重視した学習指導、一貫して無料の教育制度。これだけでも日本の教育環境からすれば驚異的なのですが、キューバはさらに保育園に頼らず親とボランティアによる地域共同保育プログラムや、保護者教育、失業者への高等教育です。何と大学が地域にも拡大し、夜間や休日になると、中学校が大学のキャンパスとして利用され、ビデオ教材や重層的な教員層を駆使して少人数の高等教育が実施されています。その受講料も無料であるばかりか、リストラされた失業者は「投資」として手当てをもらって学んでおり、住民福祉を向上し、新たな産業を起こしていく。日本との教育に対する思いの違いに愕然とします。
またキューバは革命成功後、1年で識字率をほぼ100%にまで引き上げるという前代未聞の偉業を成し遂げますが、これは10万人の中高生をボランティアに動員することに成功したからです。この識字力向上運動によって国全体に連帯意識が形成され、平等な社会を形成する礎となりました。この識字力向上運動は後年プログラム化されて、世界各国の識字力向上運動に導入されていきます。
本書は『世界がキューバ医療を手本にするわけ』の姉妹本であり、キューバが豊でない経済状況の中でどのように高度な福祉パフォーマンスを実現するにいたったのか、その原因を教育に求めて考察したものです。社会にとって重要なのは金銭よりもそこで暮らす人々の力であり、それを保証し高めるのが教育です。キューバは革命も経済危機の克服も、高度の医療制度も、教育制度も、経済力ではなく人間の力を引き出すことによって実現してきたことを、本書は浮き彫りにしています。教育の荒廃が喧伝される日本に暮らす私たちは、フィンランドと並んでこのキューバを参考にする必要があると思います。
知られたくない事は控えめに書かれている、と批判もあろうが
★★★★☆
60年、1年間で100万人の識字教育を目指し、農家と共に働き学び教える、小学6年生以上の学生ボランティアのべ約27万人を農村に派遣し、4ヶ月で約71万人を小学1年生と同水準の読み書きができるまでに成功したモデルは、TVやビデオを使い3ヶ月で身につけられるよう更に進化させ、インディオの言語や、ベネズエラの同盟国だけでなく、28カ国で行われ、冷戦時代のキューバを全否定したいユネスコにも取り入れられた。
この時の革命の力・文化の力を国力とする考え方をベースに、保育園、小学校から障がい児まで貧しい国ながらも教育費をつぎ込み、現在においてラテンアメリカでは断トツ、ユネスコも教育モデル国として推奨するに至っている。
それは米を真似た日本で取り入れられようとしているバウチャーのような劇薬ではなく、15人学級、クラス担任が卒業までほぼ全教科を教え、各生徒の癖を知り、それにあった教育をし、生徒同士も教え学びあうグループ学習による方法で、英国もモデルとしている。
教育法を真似れば、日本でも同様の学力向上が見られるのかと問われれば、それは疑問だ。
何故なら学習意識を湧き立たせる目的が、個人の銭儲けにあるのではなく、コミュニティや国への貢献であり、それがゆるぎない幸せと生徒も社会も価値観を共有しているからだ。
洗脳の共産主義国家との批判もあろうし、良い部分にのみ光を当てて書かれているのではと訝る向きもあろう。
本書が全ての真実でないのは確かだが、前著の訂正や指導者層の子(カストロの子は違うが)は同職に就く傾向があるなど、政府が隠したい部分をもコーディネーターらの協力により取材しており、ありのままに近いルポとなっている。
それでもフィンランドでは高学歴層の就職難が、キューバでは希望喪失が起こるのだが・・・