ミルトン・エリクソンとは現代に医学的催眠を導入し、確固たる心理療法にしたアメリカの精神科医である。そのいまだかつてない介入は、当時方々の臨床家をあっといわせる天才的なものだった。
しかし、彼が創始したからといって、誰にもまねの出来ないものではなく、著者であるジェイ・ヘイリーらによってその治療の組立は一般の臨床家にもわかりやすく解説され、他の「戦略的心理療法」や、同じ二瓶社の「私の声はあなたとともに」などによって日本に紹介されている。
この本の特徴は、エリクソンの心理療法を、わかりやすく、かつ、深く、かつ、無駄のないエッセンスとして紹介したことにある。これまで出ていたエリクソン関係の本は、エッセンスに絞りすぎてエリクソンの意図が伝わってこなかったり、難しすぎて要点がぼやける嫌いがあった。
エリクソン自身があまりそういう本を書かない人であったため、現在彼の神髄を直接伝える本は少ない。しかし、その弟子らによって多くが紹介されてきている。この本が他の本と異なるところは、エリクソン本人がきちんと出版前に目を通しており、その出来の良さに「この本こそ私の治療を最もよく伝える本だ」と話したことにある。
しかも、戦略的側面に偏りがちなヘイリーの癖があまりあからさまになっておらず適度に読みよい。 初心者は、頭をぶん殴られたように衝撃を受け、感動するであろう。あるいは、自分の治療を見つめ直すチャンスになるかもしれない。
中級者は、わくわくして読むであろう。しかし、一部わからないところは、臨床をつづけるうちに、何度も読み返し、その度毎に新たな発見をするであろう。 上級者は、行間を読む毎に、エリクソンの息吹を感じ、ため息をつくかもしれない。 私はこの本は一生のバイブルとして、座右に置き、ことある毎に読み返していきたいとおもっている。