ソ連の歴史・文化を学びつつ、非常に面白く読める
★★★★★
外交官「佐藤優」が外務省に入った後、
イギリス留学を経て、モスクワ大学留学、
旧ソ連〜崩壊時の在モスクワ日本大使館勤務ぐらいまで
の自伝+ソ連崩壊実録記。小説に近い感じで読める。
「佐藤優」の目という限られた観点からしか
切り取られていないため、断片的にしか捉えられない
ものの、ソ連崩壊を分析した書物の中で
我々庶民が理解し得るレベルの書物というと
本著が挙げられるのではないだろうか。
佐藤氏の著作の中では国家の罠と並ぶ名作だと思う。
ソ連の歴史・文化を学びつつ、非常に面白く読める。
サーシャ・カザコフという男
★★★★★
本書を読むと、旧ソ連の「自壊」が沿バルト三国における騒擾に端を発したことがよくわかるが、
その過程の要所要所で決定的な役割を果したと思われる、異能の哲学部学生「サーシャ」、
本名アレクサンドル・ユリエビッチ・カザコフが、通常の歴史書の中に名を残すことはまずないだろう。
サーシャはほとんど天才的なまでの論理と直感の力を持ち合わせる反面、
女性関係における徹底的なだらしのなさや、基礎的な語学力の不足を露呈もするが、
一瞬だけ機会の窓を開いたかに見える、ソビエト帝国の「自壊」を現実のものとするために、
体制内エリートとしての学業を中途で放棄し、急進的な政治的活動へとのめり込んでいく。
サーシャをはじめとするロシア人「インテリゲンツィア」の内在論理に
自在に入り込める著者の知性の高さには、今さらながらに驚嘆するばかりだが、
本書が最終的に描こうとしているのは、キリスト教がその本質においては反知性的な宗教であること、
つまり救済や恩寵が、人間の小賢しい知性を踏み破る形でしか与えられないことなのだと思う。
おそらく著者は、サーシャ・カザコフという知性の極致のような人間の中に、
逆説的に知性を破壊しつつ歴史を作り出す、根源的な力が満ちるのを感じたのではないか。
帝国の「自壊」から10年、著者が巻き込まれた鈴木宗男バッシングのさなかで、
「ジャーナリストになった。生活はのんびりしている。これでよかったと心底思っている」
とメールに書くサーシャからは、もはやかつてのような知性の輝きは失われているのかもしれない。
だが本書を読んでしまった以上、著者とサーシャの再会を心から願わずにはいられない。
文庫版あとがきにある「サーシャを探す旅」が、いつか完結することはあるのだろうか。
おそるべき元外交員の記録
★★★★★
「国家の罠」のあとに読みました。
こちらも同様旧ソ連の政治・外交がよくわかり改めて旧ソ連への興味が湧きました。登場人物は多いが混乱することなく描写がよくできていると思います。「情報力」の大切さを教えてくれました。
個人的には「国家の罠」のほうが好きですが、こちらも読んで損はありません。
内容は面白いけど…この人物、要注意と感じました
★★☆☆☆
昨今のロシア事情を知る一助としてこの本を読んでみましたが、我々が既に好く見知っている所謂「西欧」とは異質で明治以来わりと疎遠になってしまった彼の国の内情が好く伝わって確かに面白いです。語学の勉強方法についても貴重な示唆を得ることも出来ました。でも、あまりこの人物の言うことを真に受けない方が好く、特にイメージ操作をしかけられている事に注意というか警戒心が必要と感じます。それが特に感じられたのはチェチェン紛争に関する部分で(他の個所では彼自身が何故そう思うに至ったのかが割と詳細に述べられているにも拘わらず)何ら根拠の提示がなく唐突にチェチェン=テロリストというイメージを我々の脳裏に植え付けようとしている点にかなり深いけど意図的なものを感じました。同じような手法は日本の何人かの政治家や官僚へのイメージ作りに対しても使われています。
結局はロシア政府の為にわが国民の血税を相当に遣わされた挙句に北方領土は一かけらも戻っていない、という無残な現実に対して怒りと疑問を彼に向けない人がこんなにも多いのか不思議であると同時に不安を覚えます。
『虚実「鈴木宗男」を追う』というサイトによると、公安調査庁など日本の公安当局は、佐藤氏をロシア側のスパイではないかと疑い、長く行動監視下に置いていたとのことですが、私もこの人物はロシアに踏み込み過ぎて既にロシアに魂まで呑まれてしまっていると感じます。斜めに構えて読むことをお勧めします。
なかなかこんな本には出会えないはず。読まなきゃもったいない。是非どうぞ
★★★★★
ソ連崩壊に巻き込まれた自身の体験を,交流した人物を通して描いた本。著者がひょんなことから(死語w)外交官になり,モスクワ大学で出会った「サーシャ」から拡がった人脈,そしてその人脈は1991年8月のクーデター首謀者とされるヤナーエフ副大統領にまで繋がっていく。
在モスクワの日本大使館三等事務官(後に二等書記官)というノンキャリアが,専門職だからこそできた言葉では言い表せないぐらいの大活躍(ほとんどスパイ)。
営業さん必携の書と言えるのでは?語学習得を志そうという人や,スパイになりたい人にもおすすめ。
論理的だなんだというより,まず文章が面白い。おそらくこの人は,まったく興味のない分野に対しても楽しく読ませる力があるはず。あの,ゴルバチョフ失脚なんて,そろそろ忘れ去ろうとされているこの頃だけど,「あ,そうだったんだ!」と勉強できます。
文庫版あとがきが70ページ。
ロシア正教について学べる。
最近の南オセチア問題にまで言及。
なかなかこんな本には出会えないはず。読まなきゃもったいない。是非どうぞ。