この本の要点
★★★★☆
かつて米国防次官補を勤めたジョセフ・ナイは、「ハードパワーとソフトパワー」を区別しようと提唱する。前者は経済力や軍事力を背景にした強制的な力である。後者は、一つの国が自国の文化やイデオロギーを宣伝することにより、みずからが求めるものを「他国も求めるように仕向ける」能力をさす。ナイの見解によると、現在ハードパワーの大規模な拡散が起きており、主要各国は「目的を実現するうえで、従来そなえていた力をかつてほどに利用できなくなりつつある」。ナイはさらに、ある国の「文化とイデオロギーが魅力的ならば、他国はよりいっそう熱心に」その国の指導者たちに習おうとするだろうから、「ソフトパワーは強制によるハードパワーと全く同様に重要である」と言う。
ソフトパワーとは、強制や報酬ではなく、魅力によって望む結果を得る能力である。ソフトパワーとは、国の文化、政治的な理想、政策の魅力によって生まれる。アメリカの文化は、ローマ帝国の時代以来なかった強さで国外に広まっている。そしてローマ帝国にはなかった特徴がある。ローマ帝国やソ連の場合、文化の影響が及ぶ範囲は、軍事力が及ぶ範囲と一致していた。しかし、アメリカのソフトパワーが支配する帝国は、日が沈むことはない。
私たちが「感じていた」国力
★★★★☆
「アメリカは力強い」「フランスは洒落ている」といった、私たちが無意識のうちに感じていた「何となく」の部分、つまり国の魅力や無形の影響力、威圧感などについて、的確に説明してくれている良書。サミュエル・ハンチントンの名著「文明の衝突」は、もとより内在する文化が原因となって生じる民族間の交流を主題とし、一世を風靡したが、この書籍は国家という線引きを前提にして、それをまたぐ際に生じる力、すなわち線の内側にいてはなかなか意識しづらい客観像を、意図的に構築することの必要性を説く。客観視の必要性と、その構築の意義を考えるという意味では、企業戦略にも活用できるのではないか。
著者は、これからの国際社会においては多国間で協議をし強調していくことを提言している。 これからのオバマ政権に期待したい。
★★★★☆
オバマ政権の駐日大使に、本書の著者であるナイ氏が就任することとなった。
新聞報道によれば、オバマ政権の日本重視の姿勢が明確になったとある。
また、国務長官となったクリントン氏は、ソフト・パワーとハードパワーを結びつけた「スマートパワー」を外交方針としているという。
ではこの「ソフト・パワー」とはなにかを知りたくて、本書をひもといた。
「ソフト・パワー」とは、国の文化、政治的な価値観、政策の魅力であり、これらによって望む結果を得る能力であるという。
本書は、イラク戦争に勝利したものの、ますます混迷を深め世界中で反米感情が高まっている中、国の文化や政策の魅力によって引きつける「ソフト・パワー」が重要であるとして2004年に出版された本である。
ブッシュ政権時代に顕著に見られた一国単独主義や、世界最大の軍事力を背景としたハードパワーによって限界を露呈したアメリカ。
著者は、これからの国際社会においては多国間で協議をし強調していくことを提言している。
これからのオバマ政権に期待したい。
日本のソフトパワー
★★★★★
ブッシュ政権からオバマ政権に変わる時代の境目を意識して読んでみた。
まず ソフトパワーもハードパワーも「パワー」であることには変わらない。著者のナイは「パワー」の行使と それによる米国の国益増加を目指すという点では ごく普通の米国の政治家であるということだ。従い 例えば ソフトパワー以上の新しいパワーが仮に出てきたとしたら 彼は そちらに乗り換えるであろうという点は 本書を読むに当たって どこかに覚えておくべきだとは思う。「パワー」の性格が「ソフト」なだけである。
次に 確かに ソフトパワーの力は強く感じる。多くの人にとっての「米国」とはマクドナルドであり ハリウッドであり メジャーリーグであるのだ。もうすぐ I Podも それに入るかもしれない。
そうやって 自分の身の回りにある「米国」は 非常に魅力的であることは否めない。個人的には 最近のハリウッドの映画の質の低下を憂慮しているが それでもハリウッド無しの映画業界も想像出来ない。
そう考えると 日本のソフトパワーも なかなか可能性がある点は 本書でナイが幾度か指摘している通りだ。日本人の自然観などは 既に 公害防止技術などにも大きな影響を持ってきたとも聞く。21世紀が環境の時代だとしたら 日本の技術と それを支える「考え方」とは 大きなソフトパワーになれるべきである。
ということで大変参考になった。
アメリカのみならず日本にも必要なパワー
★★★★☆
・ソフト・パワーとは自国が望む結果を他国も望むようにする力であり、他国を無理あり従わせるのではなく、味方につける力である。
・共通の価値の魅力と、その価値を実現するために貢献することが正統であり、義務でもあるとの感覚である。
・ソフトパワーの源泉は、この範囲(他人を動かす力)のなかで吸引力の側に関連する傾向があり、ハード・パワーの源泉は、この範囲のなかで支配力の側に関連する傾向がある。
上記がソフト・パワーの説明であり、アメリカは非常に巨大なソフト・パワーを持っているが、最近の失策により急激にそのパワーを失っている。その原因のひとつには、ソフト・パワーをきちんと理解していない政治家や官僚がいるからである。
アルカイダのテロに対抗するため、ブッシュ政権が採った手段は「ハード・パワーを重視しすぎており、ソフト・パワーを十分に考慮していない。これは間違った政策である。テロリストが民衆の支持を集め、新しい要員を確保しているのは、ソフト・パワーを活用した結果なのだから。」
核兵器が戦争の抑止力になっていた時代もあった。しかしそのような冷戦時代は終わり、核の価値は確実に下がっている。同様にその他のハード・パワーの価値も下がっている。逆にソフト・パワーの価値は上昇している。そのため、ソフト・パワーの理解・増強が国力向上につながるのである。