新時代のリ−ダ−像
★★★★☆
21世紀におけるリーダーに求められる力と資質は何かを問う一冊である。
前著『ソフト・パワー』で、21世紀の国家は、軍事力、経済力といったハード・パワーのみならず、
国の文化、政策の魅力といったソフト・パワーを重視すべきだと主張した著者の答えは、
ハード・パワーとソフト・パワーの両方を組み合わせて人々を従わせる<スマ−ト・パワ−>。
そのために求められる重要なスキルは、「状況を把握する知性(=直感的な予測力)」であるという。
そして今一つ大切なことは、こうしたリ−ダ−シップは、「学習可能」だということ。
「リ−ダ−シップは天賦の才に恵まれた、一部の人間だけが操る魔法の杖ではない。
正確な情報と正しい分析能力に基づきさえすれば、誰もが、いつでも学習可能なスキルなのである。
著者のリ−ダ−シップ観はここに尽きるだろう。」
訳者あとがきのコメントが端的に語っている。
歴史に残る数多くのリーダーの事例を引きながら導き出された結論は、
いかにもシンプルではあるが、本質を言い当てているといえよう。
基本の基本のリーダー像
★★★★★
本書は、基本的なリーダー像について平易な文章でまとめられている。
しかし、あらゆるリーダーが登場し、あらゆるタイプの概念が書かれているため、文章自体は容易であるにもかかわらず、以外に読む込むのが難しい本である。
ハードパワーとソフトパワーについて言及した後に、状況を把握し、状況を味方につけるスマートパワーが説明されている。
カリスマリーダーとして認識されているリーダーであっても、その人物を取り巻く環境が異なっていれば、カリスマ性を発揮することがないばかりか、リーダーにすらなっていない可能性がある。例えば第一次世界大戦でドイツが負けていなければ、ヒットラーはただの人としか歴史上に記録されなかったかもしれないということである。
スマートパワーは、優れたサーファーが持っている「波に乗って自分のコントロールが及ばぬ力を利用する感覚と結びつく覚悟」である。つまり、はっきりとした構造を持たない状況において、状況を正確に把握できなくとも正解を導き出す能力なのである。(p.133参照)
スマートパワーには、理性のみではなく、直感が重要な要素を含むのである。
次期駐日大使の有力候補である著者のリーダーシップと権力や武力の行使についての考え方がわかる必読の書
★★★★★
良きリーダーであることは難しい。本書はそうしたリーダーシップの盲点や要諦を古今東西の思想家や偉人を引きながら論じた一冊である。
従来のリーダーシップ論はもちろん、最先端のネットワーク論から心理学、神経科学までをも網羅する博覧強記に加え、政府高官や大学行政の長としての経験を踏まえているだけに類書にはない説得力がある。
ハード・パワー(威圧の力)のみに頼るのは時代錯誤の権力濫用者に過ぎず、これからのリーダーにはソフト・パワー(人を引き寄せる力)をより積極的に組み合わせた「スマート・パワー」が不可欠だとする認識は、著者が「国力」について語る視点と重なる。
その上で、ある状況に対してどのパワーをどう用いるかを瞬時に判断する「状況を把握する知性」が決定的に重要になってくるとして、踏み込んだ考察を加えている。
日米安保にも深く関与した米国有数の知日派としても名高い著者は、次期駐日大使に内定している。これほどまでにリーダーシップのありかたに精通した大使と日本政府がどういう関係を構築していくかには興味深いところである。
21世紀型リーダー論
★★★★★
ハーバード・ケネディ行政大学院(世界のリーダー養成所)院長を務め、オバマ政権の外交方針“スマート・パワー”の指針を指導するナイ教授の新刊。当初はそのスマート・パワーを解説した本だと思って読み始めたが、本書のカヴァーする範囲はもっと広い。
外交で言うとかつてのハード・パワー(軍事力、経済力)、ナイ教授の提唱したソフト・パワー(国の文化、理想などの魅力)を組み合わせることであるが、個人の例にあてはめると権力の行使と人を魅了する力、と置き換えられる。そして、かつての父権的社会から、女性的合意形成へ、あらゆる組織が変化していることを捉え、現代のリーダーはこの「スマート・パワー」を駆使することを求められると説く。
とにかく引用範囲は、ボノボ(ピグミー・チンパンジー)の非ボスザル的社会、政治学でおなじみ老子(最上の支配者はその存在を消す)、歴代大統領の治世方針と幅広いが、非常に読みやすい。今までリーダーシップを総括的に解説した入門書があまりなかったから書き始めた、と教授が言うように、企業社会でのリーダー(マネージャー)論など個別のハウツーを超えた書である。
訳文も非常にこなれていて読みやすいのだが、ひとつ注文をつけるとしたら、アメリカ人には馴染みの名前でも、日本人にはあまり知られていない人名などは訳注をつけてほしかった。(例えば「チェーンソー・アル」と言えば過酷なリストラで業績を回復したスコットペーパーの会長だが、大方の日本人はイメージがわかないだろう)
本書は政治家、企業人、NPO、その他あらゆる組織のリーダーたらんとする人に指針となるであろう。現代最高の知性の一人である教授が、オバマ政権のブレーンであることにアメリカの懐の深さを感じる。日本の首相はマンガ・パワーくらいしか言わないのだから(個人的にはもちろんアニメや漫画文化は世界最高水準だと思うが)。
覇権国アメリカの「属国籠絡マニュアル」
★★★☆☆
ハーヴァード大学大学院教授で、オバマ政権の駐日大使にも名前が浮上した、ジョゼフ・ナイの新刊。これは自己啓発本としても読むことが出来るが、スマートパワーとは、昔からある「棍棒とにんじん」のアメとムチの交渉術のことで、それ自体は目新しいものはない。アメリカの日本研究では、対日圧力を加えて反米勢力の反発を招くよりも、内部に共鳴者を作り出して、内部からカギを空けさせるような、「ガイアツとナイアツの共鳴関係=シアツ(指圧)」などというくだらない論調がでたこともある。こういう本を売る側は、著者の意向を踏まえるわけだから、リーダーシップ論として売り出すわけだが、アメリカの命令を受け取る側である日本側は、スマートパワーというものの悪辣な側面も観ておくべきだろう。いわば、これは覇権国の属国籠絡マニュアルでもある。反面教師として読まれるべき本だ。