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多足類読本―ムカデやヤスデの生物学

価格: ¥2,940
カテゴリ: 単行本
ブランド: 東海大学出版会
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多足類とはムカデやヤスデに類する昆虫のことである。もし、寝室や居間でくつろいでいるときに、横をムカデがすり抜けていったら平静ではいられまい。しかし、著者は一般の人々とはかなり違う印象をもっているようだ。「私はムカデやヤスデに繊細で端正な美しさを感じる」。本書は著者のこの一言に尽きる。つまり、彼らを愛してやまない著者の、ムカデやヤスデへの愛に満ちた解説書なのである。

まず、本書を開くと巻頭カラーに色鮮やかなムカデとヤスデの写真が掲載されている。それにたじろぎつつページをめくっていくと以降、多足類についての解説、採集法、飼育法、標本作成法、研究のための基礎知識、研究の手引と続いてゆく。これらの内容からわかるとおり、初心者向けの多足類研究の手引書となっている。「研究の手引書」というと無味乾燥な印象を与えるが、これがなぜか読ませてしまう。それは、ネズミをエサとするような大ムカデに驚くといったおもしろさとは別に、読んでいると、子どものような無邪気さで澄んだ目を輝かせながら 「好きでたまらないムカデやヤスデについて」夢中で語っている著者の姿が行間からうかんできて、読んでいる方までなんだか楽しくなってくるからなのだ。

全体で178ページほどの比較的薄い本ではあるが、研究方法、参考文献や資料の入手法などは著述がとても丁寧で、著者の経験がよく反映される。昆虫が好きで、趣味として実際に研究を始めたい人にはおすすめである。(別役 匝)

多足類という愉快な節足動物 ★★★★☆
足元を時々オオゲジの幼生が猛スピードで走り回ることがある(すばしこくて捕獲できない)が好きで飼っているわけではなく、私はバードウオッチャーで、魚類から哺乳類まで脊椎動物の進化・分類・行動生態学が主たる興味の範囲である。 しかし最近、友人とたまたま多足類のことが話題になり、このグループについては比較的昆虫に近い分類群であることと、倍脚綱・唇脚綱くらいしか記憶に残っていなかった(大昔の大学受験時、および生物学科に潜り込んで節足動物の進化を聴講したときの記憶)ので、おさらいのため本書を公立図書館で探し出して読んでみた。

本書は甚だ地味かつマイナーな多足類のみを扱った本でありながら、アマチュアの一般生物愛好者にもなじみ易く、お勧めできる本である。 ゲテモノ(失礼)飼育愛好者向けのビジュアルな本は他にもあるようだが、本書は簡易な専門書(生物学科で「多足類概説」なんて講義がもしあればテキストに使えるくらいのレベル)であり、採集旅行の紀行文でもあり、飼育テキストであり、著者の自伝でもあり、この分野の一般書・研究書・参考文献の紹介も豊富で(これがないと「専門書」とは言えない)、久々にバランスがとれた魅力的な生物学実践の入門書を読んだ気がする。

新版への要望を言えば、まず多足類の魅力を一般読者にアピールする魅力的なカラー写真を、口絵でなく本文に大量に掲載してほしい。 つまり用紙とレイアウトを全く変える必要がある。 多分、著者にはお手持ちのいい写真がたくさんあると思う。 なければ小動物が得意なプロ写真家にお願いするのも一法。 これで、本書の魅力は数倍に増すであろう。 

また、出版から9年が経過しているので、新しい研究成果や論文の紹介もお願いしたい。
多足類の手軽な総説 ★★★★☆
多足類、すなわちムカデやヤスデの仲間は、昆虫類以外の節足動物であるクモなどが次第に注目を集めている今でも、なお日陰者としての地位を脱していない。 あのざわざわした多くの脚を考えるだけでどうしようもなく気分が悪い、そういう人も多い。けれどこのように美しい写真と明快な文章を目にすると、庭のムカデを見る目も変わろうというものだ。参考文献も和文英文ともに充実していて、こよのうのどけしや、という感じで読める。新しい動物群の紹介図書として、はっきりと推薦できる一冊。