登場する患者にはひとつの共通点がある。それは皆「純愛」のために心を患っているということだ。しかし彼らの恋愛とて特殊なものではなく、どこにでも転がっていそうな恋愛だ。風俗店で働きながらその客を愛した女性、離婚を要求する妻をいまだ愛し続ける男性、インターネットで知り合った人妻が忘れられない男性など。あえて特殊性を挙げるとすれば、彼らが一様に自分の恋愛を「純愛」と呼ぶ点だ。著者は彼らの言う「純愛」を奇妙に思い、それを「単に精神を病んだ人のみならず、今の若い人たちに広く信じられている」と感じている。「純愛時代」という題に込められているのも、この考えなのである。「純愛」という、著者にとっては奇妙な形の恋愛が、今の時代の主流になっているというのだ。
しかし本書を読んでもわからないことがある。新しい形の恋愛、著者には奇妙に思えた「純愛」。その実態とは何なのか、それが伝わってこない。彼らの「純愛」の症例を通して著者は何を訴えたいのか。「純愛」を精神病理学的に分析し警告することこそ、精神科医としての著者の役割ではないのだろうか。
本書を単なる「お話」として読むには大変おもしろい。しかし精神科医が記す精神医学の書としては物足りない。「新しい時代の、おかしな恋愛スタイル」を並べただけで終えてしまったところが、非常に残念である。(鮎村有紀)