元来歴史というものは常に二面性を呈しているため、このような歴史書では、核心を描けば描くほど柔軟性に乏しくなるものだが、本書では核心の判断を読者に委ねる事により、そのような危険性を回避している。例えば、国連憲章に人種平等宣言をもりこむ事を、欧米から拒否される事によって勢いづいた当時の日本の帝国主義は、結果からすればアジアを欧米の支配から解放する事になるが、その賛否の明言は避けられている。皮肉にも、国家の近代化が西洋型の自由主義を受け入れたか、あるいは拒絶したかに依存した事は、大変興味深い。
読者は本書を土台として、各国の利権とは何か、外交とは何かを学ぶ事ができるのではないだろうか。ただし残念な事に、本書には日中戦争時に撮影され1937年の「LIFE」に掲載された焼け野原で赤ん坊が一人泣いている有名な写真が掲載されている。この写真は中国による「やらせ」であった事は今や常識であるが、これを見ると情報操作というものがいかに歴史を歪めているかという一端を垣間見る事もできる。