St. Elsewhere
価格: ¥616
2006年のデンジャー・マウスは、触れる物をすべて黄金に変えてしまい、まるで音楽界のミダス王のようだ。超人的な才覚の持ち主で、荒削りで濃厚な狂乱のビートと、奇妙で不気味で生き生きとした音景を生みだし、この音景は音楽の自然な流れと決して妥協することがない。一方、アトランタのダーティ・サウスのシーンではベテランであるラッパー兼シンガーのシー・ローは、ヒップホップの集会に決して束縛されない人物で、進んで冒険の相棒になりたがっている。こうして、徹底して挑戦し楽しむ、ポップ、ヒップホップ、ソウル、ロックの恐れを知らぬサイケデリックなブレンドができあがっている。控えめなリフ、抗いがたいフック、警戒心を解き放つオープニングのフレーズ ("覚えている、覚えている、正気を失った時を覚えている")の「Crazy」が、『St. Elsewhere』公式リリースのたっぷり半年前に世界中のインターネットでセンセーションを呼んだことも不思議ではない。だが、その比較的シンプルなソウル・ポップの珠玉は、この幅広い、時にはダークで内省的なコラボレーションの最もおとなしいトラックだ(実際に、このデュオはナールズ・バークレーを、既存のアーティストたちによるコラボレーションとは異なる、まったく新しい創作物だと見なしている)。"誰もが何者かであるけれど、自分自身になりたがる奴は誰もいない"とシー・ローは「Who Cares?」で囁くように歌う。彼とデンジャー・マウスは過去の自分たちを引きずらないよう懸命に努力し、創作上の自信を見せて境界線を破っているが、彼らの音楽的個性のきらめくコア――シー・ローはエキセントリックでスピリチュアルなソウルの男、デンジャーは大胆な音速の探索者――は健在だ。