あたたかいはなし
★★★★☆
作品のつくり方が変化してしなやかになっていく辻内智貴だけれども、やっぱり根底は変わらない。こう、すっと目頭が熱くなる。あざといだけじゃなく、くささもなく、本当の本当のねっこから真摯かつ真正面の筆致がすべりこんでくるようだった。父の危篤が吹かせた野の風にはそんな精神がやどっている。引っかかることなく読める物語にはっとする言葉を投げ入れるのがなんとも素敵。小学館だからとか、薄すぎるとか(中編ひとつ掌編ひとつ)で手を出さないのはもったいないかもしれない。
大切なもの。
★★★★☆
辻内氏の作品は忘れかけていたものを取り戻してくれる。本書もまさにそうです。仕事にすべての時間を取られている男。心を閉ざした息子。すさみつつある家庭。父の危篤がきっかけで故郷に戻る家族が、次第に本来の姿を取り戻していく。
結末は予想できるものの、やはり落ち着くところに落ち着くと、読者はほっとします。
心があったかくなること請け合いです。
解毒作用!
★★★★☆
表題作「野の風」と書き下ろし小編「ナコちゃん」の二作品構成になっています。
「野の風」は現代社会に生きる人が気付かないうちに大切な何かを何処かに置き忘れてきてしまった様な、生きることに必死になるが故に知らず知らずのうちに世間の毒を浴びてしまい自分にとって本当に必要なものは何なのかさえ忘れてしまっていた事に、気付かされる感じの作品でした。
「ナコちゃん」も短いけれど、ほのぼのとした良い作品で、読後気持ちが安らぐ様に感じました。読んでみてね。