シューベルト歌曲のトランスクリプションを網羅しているわけではないので収録曲を挙げる。
1. Sei mir gegruesst.(私の挨拶を)
2. Auf dem Wasser zu singen.(水上で歌う)
3. Dubist die Ruh'.(君は我が憩い)
4. Erlkoenig.(魔王)
5. Die junge Nonne.(若き尼僧)
6. Fruehlingsglaube.(春の想い)
7. Gretchen am Spinnrade.(糸を紡ぐグレートヒェン)
8. Staendchen von Shakespeare.(セレナード)
9. Rastlose Liebe.(憩いなき愛)
10. Der Wanderer.(さすらい人)
11. Ave Maria.(アヴェ　マリア)
12. Die Forelle.(ます)
13. Staendchen.(セレナード)

参考までに、シューベルト以外の歌曲トランスクリプションは同社から出版されている「リスト　リートによる15のピアノ小品集」にいくらか収録されている。興味のある方はそちらも繙いてみることを勧める。

国内版で出版しているこのリスト編曲のリート集はこれしかないと思うけどシューベルトの有名歌曲がしっかり網羅されてます。リストはシューベルトの編曲では超絶技巧より旋律や和声を尊重し、丁寧に編曲しておりシューベルトの歌曲を愛していたことがわかります。「魔王」や「アヴェ・マリア」などは難易度は高いけど最低これらの曲は弾いてみたかったので選曲はいいと思います。あとは聴いてるとほんとに2本の手で弾いてるの?とびっくりした「水の上で歌う」やキーシンも弾いた「さすらい人」も入ってます。最後の「セレナーデ」はなぜか演奏効果が変わらないからって簡単なバージョンがoissaとして載ってますが個人的にはリスト編曲の方がいいし、そっちを弾くことをすすめます。

リストの編曲作品は低く評価されることが多いですが、この本に収録されているシューベルト歌曲のピアノ独奏トランスクリプションは素晴らしいと思います。まず、シューベルトの歌を第一にしていることが上げられ、その上でピアニスティックさを追及しています。そのためリストの曲としてはさほど難しくないのですが、演奏効果十分で上級者の発表会レパートリーとしても適していると思います。
「水上で歌う」「アヴェ・マリア」はリスト本人の歌曲トランスクリプション（たとえば「愛の夢」）よりも出来が良いのではないかという気がします。「魔王」はシューベルト原曲の伴奏は大変演奏困難なことで有名ですが、リストは低音部も含めた両手のオクターブ奏法とすることで劇的な効果を高めた上で、無理なく演奏できるように（延々と連打しなくて済むように）巧妙に音を減らしています。また、メロディと伴奏を同時に弾かせることで、かえって演奏しやすくなるような工夫も多く、本当に目からウロコのアイディアなのでぜひ楽譜で確認してください。
なお市田儀一郎さんが校訂しており、丁寧な解説が付いています。リストのピアノ書法と、シューベルトのメロディの両方をたっぷり満喫できる楽譜として、多くの人におすすめしたいです。