最初はダライ・ラマの返答があまりに単純で、まるでロバート・フルガムの上っ面だけを読んでいるような気分になる――「本当に必要なものかどうか自分に訊ねてみなさい」「敵に教えられることもあります」「思いやりが心の平和をもたらすのです」。そこへカットラーが鋭く切り込んでいく――「しかし多くを所有して、なおかつ幸福そうな人たちが現にいます」「でも『苦しみこそ人生』というのは悲観的すぎますよ」「いや、極端に走ることが人生に興趣を添えるとも言えます」「けれど私がカルマを信じないとしたらどうなります?」ダライ・ラマの答えが複雑さを増すにつれ、首尾一貫したひとつの哲学が浮かび上がってくる。カトラーはこのあと、科学的研究や自分の遭遇した症例と絡めながらダライ・ラマの言葉を詳しく説明し、それをよりどころに彼独自の革命的心理学を具体的に論じていくのだ。どんな技法(art)にも言えることだが、幸福の技法(art of happiness)も研究と練習なしには身につかない。だがその能力は私たちに生来備わっているのだと、ダライ・ラマは請け合っている。