ひとりも幸せ、誰かといることも幸せ
★★★★★
どこまでもどこまでも広がる台地と空。
見渡す限りの広い台地に、
オオカミくんとピアノだけがぽつんとある。
オオカミくんはピアニスト。
そして ひとりぼっち。
端的に絵に表現される、その事実。
最初のシーンでは、オオカミくんの顔はまだ見えない。
その後姿からは、その事実をどう思っているのかは見えない。
寂しそうにも見えるし、静寂を味わっているようにも見える。
もしかすると、この絵が映し出すもの、この絵から感じるものは、
孤独に対する自分自身の感じ方かもしれない。
ぼんやりと空を眺めている姿も、
自由気ままにも見え、少し寂しそうにも見える。
ここからエピソードの繰り返しが入る。
ある日遠いところから手紙が届き、
それにはピアノを聞かせてくださいと書いてある。
手紙に添えられているものが毎回異なり、
それが特徴的なきれいなものなのである。
オオカミくんは遠いところへピアノを引きずって訪ねて行く。
その道のりも毎回特徴があって幻想的である。
オオカミくんの演奏を楽しむ者たちの様子もまた
不思議な雰囲気をかもし出している。
お礼はオオカミくんにとっては
食べられないものだったりするけれど、
喜んで受け取り、帰っていく。
帰ってくると余韻を楽しむ。
帰ってきたオオカミくんの心境や行動は、
行く前とは微妙に変化している。
その繰り返しが3度ある。
3度目では、1度目2度目とは違うことが起こり、
それが穏やかに繰り返されていたエピソードに、
ふっと緊張と変化を与える。
オオカミくんは、ひとりを味わっているが、
まったく独りぼっちで誰とも会わないことを望んでいるわけではない。
ときどきなぜか泣きたいような気分になることもあり、
そのときには演奏を望んでくれた仲間たちのことを思うのだ。
ピアノを聞かせてほしいという手紙が届いたとき、
彼はその手紙を幸せな気持ちで味わっている。
じっと手紙を見つめたり、
手紙に同封されていたものにそっと触れてみたり、
同封されていたもののにおいを味わったりする。
帰ってきてから、そこにいたときのことを思い出す方法が、
感覚を研ぎ澄ます豊かなものなのだ。
思い出を美しく思い出す方法をオオカミくんは知っている。
私もなぜか泣きたいような気分になることがある。
そのときは、オオカミくんのことを思い出そう。
ひとりでいることも、誰かといることも、味わうことができる彼のことを。
格調高い絵に秘められた力強さ
★★★★★
以下は2006年3月27日のものですが、出版元が変り新風舎版は
取り扱われていないようなので、レビューをこちらへ転記しました。
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細長い手足と繊細な指、坂本龍一を彷彿させる長いまつげとサラサラした髪の毛。
うんっ、オオカミくんの外見は正にピアニストですね。
そんな彼は、ひとりで重いピアノを引いては、演奏する場所へ出かけます。
その姿は、まるで屋台を引く石焼き芋屋ですね。
ただし、「音楽はいらんかね〜 ピアノをきかせるよ〜」なんて呼び込みはしない。
小鳥が配達する手紙に応じて出かけていくのです。
リクエストのためには、砂の道だろうと、険しい山だろうと、幾日もかけて進んでいくのです。
もちろんオオカミくんにとっては、そうするだけの価値があり、それが何なのか次第に
気付いていくのですが。
それにしても、なぜピアノなのか? バイオリンとかフルートとか、もっと持ち運び
しやすい楽器でもいいのでは。 と考えたとき、はたと気付いた事があります。
大きなピアノを引きずる姿の中に、オオカミくんの陰の努力や、孤独のつらさ、
人生を歩んでいく力強さというものを、いつの間にか感じ取っていたことに。
軽い楽器だと、それは伝わりません。
他の楽器をもった動物といっしょになって演奏し、音楽最高!イエーィで終わったり、
きれいなオオカミの女性と出会って、ラブラブハッピーな結末になってしまったかもしれない。
しかし、そうはならない。そういうテーマではないのだ。
オオカミくんの旅は軽やかな歩みとともに続くのですから。
記憶に残る絵本の条件は
★★★★★
某絵本サイトで評判が良くて気になった作品。
質の高い絵。そしてストーリーがいい。
心を包む温かさと胸をしめつける切なさ。
絵と同じくらい話も魅力的な作品はあまり多くない。
この作品の魅力のひとつ、様々な解釈を許す作風は、
映画や絵本を好きな人にはたまらないのでは。
再刊される前の旧版によせられたレビューが多種多様なのも、
作風の自由さからくるものだろう。
うちのプチオオカミ(息子)には上等すぎる気もするが、
わかりそうで、ふにおちないのか、しょっちゅう読まされる。
そういや幼い頃、好きなのに納得いかない絵本が何冊かあり、
いく度も読んでもらっては涙したり考えたりした記憶がある。
そういった絵本ほど大人になっても鮮明に覚えているからおもしろい。
この絵本もそんなふうに息子をとらえて離さないといい。
現代に孤独をかかえて生きている人の心を伝えてくれるような絵本です
★★★★★
オオカミくんは ピアニスト。
そして ひとりぼっち。
この文章で始まる最初のページ、青い空の下に草も何も生えていない大地、そこに置かれたグランドピアノとオオカミくんの姿。ひとりぼっちの寂しさと悲しさが、胸に刺さるように伝わってきます。
そんなオオカミくんのところに、手紙が届きます。手紙には、「ぜひピアノを聞かせてください」と書いてありました。
オオカミくんは、手紙の送り主に会うために、ピアノを持って何日も砂の道を歩き続けました。手紙の送り主はカモメたちでした。オオカミくんは、海の音に合わせてピアノを弾きお礼にさかなを受け取りました。
家に帰ってきたオオカミくんは、貝殻に耳を当ててカモメのことを思いました。
ピアノをよく弾くようになったオオカミくんのところに、また手紙が届きます。オオカミくんは少し嬉しくなって、また遠くまで出かけていきます。
最後までオオカミ君は一人ぼっちです。でも心をつないでくれるオオカミくんのピアノ音色、またきっとオオカミくんのもとに「ぜひピアノを聞かせてください」と手紙が届くでしょう。
今は一人ぼっちでも、誰でも人とつながるための「何か」を持っているということを教えられたようです。
音楽が人と人をつなぐ
★★★★★
オオカミくんはひとりぼっちのピアニスト。
でもピアノが上手に弾けることでたくさんのお友達に出会うことが出来ます。
でも最後にはまたひとりぼっち。
寂しそうだけど、なぜかほんわか温かくなるストーリーです。
A4判の大きな絵本でまるでその絵の世界に入り込んだよう。
オオカミくんが奏でるピアノの音色きいてみたい。
そう思わせます。
アニメ化があるので楽しみにしています。