ニューヨーク・プラザホテルの最上階にあるスイートルームに住んでいる、6歳の大金持ちの女の子エロイーズが、ばあやと2人でパリに行くことに。パリの「小さな」アメリカ人の冒険が始まる。

   水色とピンクの2色の濃淡だけで彩色されたペン画は、エロイーズのはずむような足どりはもちろん、1950～60年当時の古きよきパリの町並みと人々を簡潔ながら精巧なタッチでくっきりと捉えていて、大人の目をも喜ばせてくれる。クリスチャン・ディオールやイヴ・サンローランなど当時の有名人がなにげなく描き込まれて、とってもおしゃれ。

   当時のアメリカ人にとって、パリは特別思い入れのあるところ。それに海外旅行自体、今よりも大仰なことだった。思いっきり気張って、山ほどの荷物を抱えて、知ってる限りのフランス語を駆使して、景気よく出かけていく。旅先の不便も風習の違いも何のその、好奇心満々で物怖じしないエロイーズは、彼女流の「パリ生活」をめいっぱい楽しむ。

   観光地、美術館めぐりにお買い物、オペラ座、マキシム。大人が楽しめるイラスト入りの本、といった方がいいかもしれない。ところがこれが子どもにもなかなか魅力的な絵本のようなのだ。エロイーズのこしゃまくれた口の利きようや態度が小気味よいのか。自由で独立していて孤独でもかまわず楽しんでいる生き方にわくわくするのだろうか。子どもって意外と「大人」なのかも。（翁 ゆり）