本書では、神格化されていない、ひとりの人間としてのアインシュタインの姿も知ることができる。たとえば、自らの理論を実験的に実証してもらうため、ひとりの天文学者にへつらい、期待し、やがてその能力がないと知るや辛辣な態度に変ずる彼の姿や、提案した方程式に対する批判が集中し、批判を撃退しようと躍起になる姿などがみえてくる。彼もひとりの人間であったのだ。
しかし、宇宙の成り立ちについては神に近い領域で理解していたようである。彼は宇宙が膨張していることを、ハップルが天体観測の結果から発見する前に理論により予想していた。しかし、彼はそれを単純に信じず、宇宙が静的なものとなるよう理論に巧妙に手を加えてしまう。そして、そこに批判が集中するやそれを引っ込め封印してしまう。だが、彼の直感は正しかった。最近になって人類はやっと彼の直感した「巧妙なしかけ」が宇宙にあるらしいことに気づいてきた。
本書は、この最新宇宙論が示唆する宇宙の「巧妙なしかけ」についてもかなり力を入れて解説している。質のよいノンフィクションであり、また、最新の宇宙論の解説書でもある。(別役 匝)