学会出席のため、妻と共にパリを訪れたアメリカ人医師リチャード。しかし突然妻が失踪し、言葉もわからぬ異国で彼は自ら捜索に乗り出していく。そもそもパリに生まれながらも、父がポーランド人、母がユダヤ人であったことからナチスドイツの迫害を受けたのを皮切りに、絶えず国がらみの数奇な運命をたどってきた鬼才ロマン・ポランスキー監督が、一貫して異邦人の視点でパリを描ききったクールなサスペンス映画。
状況設定などに多少の無理も感じられるが、主演ハリソン・フォードの異国における悪戦苦闘ぶりが実にリアルで、それらの欠点を補ってあまりある、映画ならではの魅力を発散した秀作としての印象を強く残してくれている。音楽はイタリアの巨匠エンニオ・モリコーネ。彼もまた徹底して異邦人の立場でパリジャン・ミュージックを構築しており、これまた実にお見事。(的田也寸志)