ブラッカムの爆撃機にとりついたドイツ軍パイロットの怨念
★★★★★
英空軍ブラッカムの爆撃機に不運にも撃墜されたドイツ空軍ユンカース
炎に包まれるユンカース、僚機から脱出をせかされるが、
当初はパイロットは冷静に氏名の申告をする。
「こちらゲーレン中尉」
炎が迫るにつれ、
「ドイツ万歳」を叫ぶ、
炎が皮膚を焼き、肉体が焦げるにつれ
「ママ、ママ、、、」
「左手が操縦桿に焼け焦げ、左手がとれちゃったよお」
そんな、ドイツ空軍パイロットの断末魔の呻きをブラッカムの乗員はせせら笑う、
戦死したドイツ空軍ゲーレン中尉の怨霊がブラッカム機にとりつく。
著者は英国は確かにドイツ空軍の爆撃を受けたが、はるかに激しい連合国軍の爆撃で死んでいくドイツの婦女子に、また、ドイツの中世の面影を残す伝統ある街並みが廃墟になっていくことに思いをはせる。
少年に良書を
★★★★☆
宮崎駿関連でこの本にたどり着く人も多いだろう。
そこを切り離して考えてみても、非常に良い本だ。
少年の感性をくすぐる十分な物語性。
話の展開のスピードと、情景、流れる時間、時代。
表面だけの薄っぺらい本とは出来が違う。
周りの少年にぜひ!
戦争を語り継ぐ平和への祈りを込めた英国の優れた児童文学
★★★★☆
自身が第2次大戦の空襲を経験し、一人息子を18歳で亡くし心身喪失の妻とも晩年に離婚した英国の児童文学者ウェスト-ル氏の3編と宮崎駿の彼へのオマージュ(短編漫画)、氏の経歴で構成されています。
著者は少年の心を通した戦争を描写することで、若い世代に戦争を2度と繰り返さないで欲しいというメッセージを投げかけると同時に、戦争の陰を背負った自らを癒しているのではないかと感じました。平和への祈りを込めた上質の児童戦争文学だと思います。
今の競争主義の時代は、ウェストール氏の優れた文学も宮崎さんの優れたアニメーションもエンターテイメントの領域から他者の痛み(世界の貧しい人や今、戦争で苦しんでいる人々)を自分のこととして捉える感受性を生む領域までは中々昇華できない時代かも知れませんが、
本書を読み、従兄弟・友人・知人の子供達が優れた文学やアニメーションで他者の痛みが分る豊かな感受性を育んで欲しい、そう強く思い至りました。
これは、同人誌です。
★★★★☆
この本は、ウェストール作品が、好きで好きで好きで好きでたまらない宮崎駿監督が、
天下の岩波を巻き込んで作った。豪華同人誌です。
作品の内容については、先の皆様のレビューにもあるように、文句なしの内容です。
それに、天下の宮崎監督の、思い入れたっぷりの解説がついて、豪華すぎる本になっています…が…。
あまりにも、監督の思い入れが強すぎて(だから、同人誌と言ったのですが)、先入観と言うか、真っ白な気持ちで読めないと言うか…。この本の作りでは、解説読む前に、小説を読むのは無理ですし。
緻密(過ぎる)な戦闘機の解説画のお陰で、機内の状況などは想像しやすかったですが、この小説は、質素な装丁と挿絵でこそ、内容が光ったのでは?。などと、えらそうな事を考えてしまいました。
英国の児童文学
★★★★★
何年も前に初めて「ブラッカムの爆撃機」を図書館の児童文学のコーナーで見つけたときはてっきり職員がおき間違えたのではと思ったほどその完成度の高さに驚愕した。どこかのパブでの問わず語りではじまる冒頭からぐいぐい物語りに引き込まれてしまう。本当はエンジン音で声さえ聞き取れないほどであろうに静寂感さえただよう機内、夜間戦闘機と死闘、夜間爆撃の濃密な描写などを通じて読者はいつしか物語の世界へ導かれ主人公と同化していく。これはもう上質な大人のミステリーである。
本書は宮崎駿氏の尽力による単なる復刻にとどまらず氏の書き下ろしや作画、ウエストールの生涯の解説などを加えたスペシャル版となっている(中でも氏の作画によるC号機の図解は必見)。私はつくづくこのようなすばらしい作品を読める英国の子供たちがうらやましいと思う。