本書には、「さんしょっ子」「きつねの窓」「空色のゆりいす」「鳥」「夕日の国」「だれも知らない時間」「雪窓」「てまり」「赤いばらの橋」「小さいやさしい右手」「北風のわすれたハンカチ」と、巻末に八つのエッセイが収められています。作品で特に忘れられない(気に入った)のは、次の四つかな。
サンショウの木の中に住んでいる、お手玉の好きな女の子の話――「さんしょっ子」
耳のお医者さんのところに、耳の中に大変なものが入ってしまったと、ひとりの少女が飛び込んでくる――「鳥」
雪の中、おやじさんとたぬきが出しているおでんの屋台に、不思議なお客が訪れる――「雪窓」
遊び相手のいないお姫さまが、ああん、ああん、うわあ、うわあと泣いている場面から話が始まっていく――「てまり」
それから、安房直子コレクションの7冊では、どの巻でも何かしら素敵な話と出会うことができましたが、なかでも第4巻「まよいこんだ異界の話」と、第5巻「恋人たちの冒険」の2冊に読みごたえを感じました。
不思議な魔法が働いている安房さんの作品世界。またしばらくしたら出かけて行って、遊んでみたいなあと思います。
指でひしがたの窓をつくってのぞけば、数えながらなわとびをとんでみれば、しゃがいものシチューやホットケーキ、おだんごやおでん、ごく日常的なもののなかから、魔法の時間へするっと滑り込めそうな気がします。
一枚の絵の中に短編の主人公が描かれている北見葉胡のイラストも素敵です。