息をもつかせぬ物語はこうして始まる。これはカリオペ・ステファニデスとギリシア系アメリカ人であるステファニデス一族の3世代にわたる物語である。カリオペの祖父母は、オリュンポス山を見渡せる小アジアの小さな村を離れ、禁酒法時代のデトロイトにやってくる。一家は車産業の隆盛や1967年の人種暴動を目の当たりにしたのち、ミシガン州郊外グロスポイントの並木通りの家に移り住む。
なぜ自分は普通の女の子と違うのだろう。それを理解するために、カリオペは罪深い家族の秘密と遺伝子の歴史――カリーをカルに変えた驚くべき遺伝子の歴史――を探ることになる。カリー/カルは、現代フィクションのなかでも稀なほど、大胆不敵で独創的な語り手である。詩的でスリルにあふれる『Middlesex』(邦題『ミドルセックス』)は、アメリカの叙事詩の概念を根本から覆す物語である。