Snow Falling on Cedars: A Novel (Vintage Contemporaries)
価格: ¥1,305
読みながら匂いをかぎ、物音を聞き、情景を視認できる、この小説はまさにそんな作品である。物語の世界の雰囲気がページを通してはっきりと伝わってくる小説だからだ。舞台は、ワシントン州、ピュージェット湾の北に浮かぶ島の1つ。住民たちのなりわいが漁業か果実栽培のいずれかであるこの島を舞台にしたこの小説は、基本的にはある殺人事件の裁判をめぐる話だ。時代は第二次世界大戦の記憶まだ消えぬ1950年代。強制収容所や人種差別といった要素が、この島で生まれ育った1人の日系アメリカ人漁師への嫌疑を深めることになる。筋立てそのものも非常に秀逸だが、グターソンの見事なタッチによって描き出される人物や風景は、何といってもこの小説を読む最大の喜びといえる。
ピュージェット湾沖に浮かぶ島に暮らす1人の日系アメリカ人。第二次世界大戦中に強制収容所で過ごした彼は、島の住民たちの不信や偏見と戦っていたが、殺人事件の容疑者として裁判にかけられることになる。新聞記者のイシュメール・チャンバースが真実を求めて事件に乗り出したとき、この事件の被疑者と犠牲者、島の漁師とサン・ピエドロの小さな町の住人の、それまでの歴史がひも解かれていくことになる。チャンバースは、被告人の妻、宮本初江との報われぬ愛を受容しつつ、正義と精神的強さを求めて孤軍奮闘する。喚起力に満ち、美しい文章でつづられる本作は、1995年にペン・フォークナー賞に輝いた。