1冊まるごと阿修羅像
★★★★☆
奈良の興福寺の宝物館で一番人気のある仏様は阿修羅像ですし、現在東京国立博物館で開催されている阿修羅展の人気は凄まじく、その影響もあって仏像ブームが到来しています。
そんな阿修羅像の魅力をあらゆる角度からアプローチして探る書籍というと、この毎日新聞社の魅惑の仏像シリーズの本書『阿修羅―奈良・興福寺』が一番良いのでは、と思います。
口絵の写真は30ページにわたって、阿修羅像を様々な角度から写したカラー写真を掲載しています。東博では、360度から拝観できるように展示をしていますので、本書同様、普段目に出来ない裏面のお顔も分かるわけですが、書籍の良いところは細部にわたって繰り返しじっくりと鑑賞できるところでしょう。
美しいお姿と何とも言えない表情に惹かれるわけですが、親しみを感じさせる点においても我が国の国宝の中でも最高ランクに位置する仏様だと思います。
解説も大変読み応えのあるもので参考になりました。東京芸術大学教授の後、愛宕念仏寺の住職となった西村公朝師の「阿修羅の叫び」のほか、西川杏太郎「永遠の名像‐阿修羅」、「脱活乾漆の技法と工程」、小川光三「仏像写真と阿修羅像」、小西正文「興福寺の沿革史」、興福寺の年表が記載してありました。少し専門的な記述が続きますが、深く知るにはこれぐらいの丁寧さが必要でしょう。
興福寺の八部衆の五部浄像、沙羯羅像、鳩槃荼像、緊那羅像、迦楼羅像、乾闥婆像、畢婆迦羅像の写真もモノクロで掲載してあります。巻末には興福寺境内図、鑑賞ガイドとして、興福寺の住所、連絡先、年中行事、立ち寄りスポット、興福寺の国宝の仏像、拝観ポイント、阿修羅の各部の名称、各部の寸法、などが掲載してあり、相当な情報量だと思いました。