デビュー・アルバムは、自分たちに大きな影響を与えたもの――キャプテン・ビーフハートからハーブ・アルバートまで、ありとあらゆるもの――から多くのものを吸収したことが明らかな、とんでもなく複雑な内容だった。だが『Magic and Medicine』の場合、要所を占める楽曲群はそれほど型破りなものではない。飾り気のないアコースティック・ギターをともなう「Pass It On」では、フロントマンのジェイムズ・スケリーが、あの煮え立った釜から出てきたようなダミ声でソウルフルな温かみを表現できることを証明している。また、ゆったりとした甘美なラヴ・ソング「Liezah」は、簡素であるためにいっそう胸に響く。これらの小気味よいマージービート・ナンバーは、キャストあたりが以前よくやっていたような退屈で愚かしいトラッド・ロックに逆行してしまうことは決してない。ザ・コーラルが壮大な虚構への愛着を失っていないからだろう。
だが、いま一度お断りしておく――ザ・コーラルの特徴だった子どもっぽい海賊物語は、新たに登場した暗い寓話に席を譲ったのだ。たとえば「Bill McCai」では、年老いたサラリーマンが「もう1度あの少年時代に」と思いこがれるが、曲は彼が首を吊るところで幕を閉じる――残酷な展開だが、バンドの態度は意外と冷淡で、特に悲しげな素振りを見せない。(Louis Pattison, Amazon.co.uk)