有名な「叫び」が生まれた訳
★★★★☆
ムンクの代表作「叫び」はどのようにして描かれたのかが気になりました。同様のモティーフを描いた「不安」「絶望」も相当風変わりな絵で、歪んだ人物像や暗い色調、見る者を不安に陥れるような雰囲気は、他の画家とは一線を画しています。
そのような絵を描いてきたエドヴァルド・ムンク(1863-1944年)の生涯を辿りますと、5歳で母親と死別し、叔母に育てられました。妹も結核で亡くなっており、弟も失っています。父親も20代の頃に亡くなっていますので、実に肉親の縁が薄い人生でしたし、恋愛対象も人妻を対象にして不倫を重ねるなど普通の愛を育むのが難しい人です。
そのような境遇や嗜好が画風に影響を与えていると思うのが普通でしょうし、肉親の愛や男女の愛の欠乏が、「叫び」や「不安」「絶望」「吸血鬼」「マドンナ」といったモティーフを生み出したのだと思います。死への恐れ、悩みと恐怖が精神の変調をきたしているのではないかと思えるほどモティーフは特異です。暗くて見る者を釘付けにするような歪んだ人物像の数々の意味合いが画家の人生とダブって見えました。
「声・夏の夜」というムンクの初恋の人(人妻とのこと)の白い服と黒目がちな表情に惹かれました。孤独な境遇の中で出会った理想とする女性像がそこには存在しています。
晩年は色調も明るく、1920年代には労働者を題材にするなど、画風の変化もあったわけですが、名声の意味合いを掴みきれないもどかしさも感じました。作品の強烈な印象のほうが上回っていた感じがしました。