尾形光琳の画業の全てを知ることができるムック
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筆者の仲町啓子氏は実践女子大学教授で、日本美術史とくに琳派や浮世絵などの江戸時代の絵画・工芸がご専門とのことですから、記述の内容も確かです。
尾形光琳によって江戸時代を代表するような華麗なる装飾絵画が花開いたわけで、その残した芸術の素晴らしさはすでに評価が定まっています。「八橋蒔絵硯箱(14頁)」「燕子花図屏風(18頁)」「紅白梅図屏風(64頁)」の美しさとその高い芸術性を、本書において改めて確認することができました。67頁にも触れられていますが「紅白梅図屏風」の金箔については、美術史学界において様々な科学的検証が行われており、少しずつ解明されているところです。
江戸時代から高い評価を受けた光琳ですが、明治以降外国の美術愛好家は光琳のデザイン性に早くから着目しています。元禄時代の装飾家、アーティストとしての評価が定まり、人気があったことは、大英博物館蔵の「松島図屏風(43頁)」、メトロポリタン美術館蔵の「八橋図屏風(56頁)」などの名品が海外へ流出していったことからも伺えます。外国での高い評価によって、光琳の斬新性と時代を超えた意匠の奇抜さに関心が集まり、国内でのさらに高い評価へとつながったように感じています。
50頁からは、弟の乾山との合作について検証してありました。浪費家で放蕩の兄・光琳に対して、堅実な弟・乾山というイメージがありますので、兄弟の芸術に対する肌合いの違いは性格の違いから派生したものだと受け取っています。
オールカラーですし、解説も分かりやすく丁寧です。雪舟、雪村、宗達の作品の模写の過程での画業の確立や、光琳のめざす境地なども追えますので、琳派ファンにとって有益な書となることでしょう。