水は人権か、財産か
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昨今の日本では、公営サービスよりも民営サービスの方がコストも低く、質も高い、というイメージがあるように思う。
不採算の公営サービスを民間企業に払い下げするという話題は「かんぽの宿」だけでなく、これから広がっていくのは避けて通れないことであろう。
水道事業についても、徐々にではあるが民間企業への委託が行われている。
今のところ日本では大きな問題として取り上げられていないが、水道民営化によって貧しい人たちが安心して飲める水へアクセスできなくなってしまうという、危機的な状況に陥った事例が世界中に溢れている。
また、ダム事業や淡水化プラントなど、一見水問題解決に有効と思われる技術に対しても、企業が行うことで別の環境問題を引き起こすことも知られてきている。
本書では、水にまつわるビジネスで莫大な利益を得ている企業と、大きな被害を受けてしまった一般市民の実情、そして「水は人権」を標榜し安全な水へアクセスする権利は全ての人が持つべきと訴える「ウォーター・ジャスティス・ムーブメント」の活動について詳しく書かれている。
読むだけで世界的な水問題の全体像を俯瞰することができ、日本では当たり前のように手に入る「水」について考える大きなきっかけとなるだろう。
日本は世界に誇れる公営水道事業があるので今はまだ実感できないことばかりだが、このまま不況が進めば確実に民間企業への移管という話は出てくるであろう。巻末に「日本における「ウォーター・ビジネス」の現状と問題」ということで翻訳者の解説が追加されており、遠くない将来に実際に選択を迫られることになるように感じた。
その時、世界で起きている問題を繰り返さないためにも、実際に何が起きていて、何が問題であるか知ることは大事である。