著者がこれまでに手掛けてきた困難な心臓手術と、患者の生死に直面した時の心情が描かれた内容で、テレビドラマ「ブラックジャックによろしく」(TBS系)さながらの緊迫感あふれる内容に仕上がっている。
当然ながら、手術には失敗もあるわけだが、心臓手術においては、それはダイレクトに患者の死を意味する。これらの現実を包み隠さず吐露した点が、本書の最大の特徴であろう。亡くなった患者の亡霊におびえ、「自分は人殺しではないのか。自分が人の命を預かるという大それたことをしていいのだろうか」と思い悩む医師の生々しい姿は、きっと読者に衝撃を与えるに違いない。
また、オーストラリアのセントビンセント病院で働いた経験から、日本の医療の問題点を鋭くえぐり出した内容も魅力である。医局という名の派閥に支配され、歪んでしまった日本の医療業界、現場経験の少ない医師が患者の尊い命を扱っているという現実…。『ブラックジャックによろしく』でも描かれていた問題点が、ここで再度提起されている。
内容の中心はあくまでエッセイだが、第4章でまとめられた医者の選び方、付き合い方、著者が尊敬する医師の紹介などは、実用の点からも興味深い。医療に関心をもつすべての人におすすめしたい1冊である。(土井英司)