本書の前半で著者は、アインシュタインの特殊相対性理論や一般相対性理論、カール・シュヴァルツシルトのブラックホールに対する見解、ホーキングの理論など、物理学の巨人たちのさまざまな理論を検証しながら「タイムトラベル」に関する自らの見解と課題となる点を述べている。決して易しくはないが、読者の知的好奇心を大いに刺激してくれる論考である。
第3章から展開される具体的なタイムマシンの作り方は、さらに興味深い。ここでは、タイムトラベルを実現させる際のさまざまな問題点や矛盾点を鋭くえぐり出しており、具体的にどんな装置が必要なのか、起こりうる問題は何なのかを明らかにしてくれる。
最終的に読者は、タイムトラベルの難しさを改めて実感し、がっかりするかもしれない。だが、古今東西の巨人たちが取り組んできた時間と空間の謎に迫ることができるだけでも、本書を読む価値は十分にある。(土井英司)
どちらかといったら、未来へ行くほうが簡単のよう。「移動速度が上がると時の流れが遅くなる」という特殊相対性理論をそのまま当てはめればよい。仮に光の速さとひけをとらないくらいの速い乗り物に乗っていれば、自分の身は1年しか経ってないのに、世界は2年が経っていた、なんてことも不可能じゃない。
一方の、過去へ行くほう。これはとても難しい。かの「ひも理論」を使うなど、いくつかアイディアがあるようだが、この本で語られているのは「ワームホール」を利用したものだ。
ワームホールとは、ブラックホールの特異点をつなぎ合わせたようなもの。そこをむりやり通って、地球の近所から宇宙の別の場所へ光より速くたどりつき、またすぐに地球に戻ってくれば(今度はワームホールを通らないで)、過去の地球に行くことができる(らしい)。
親切にも、この本にはワームホールをつくるにはどうしたらよいかまで書かれている。①衝突器で10兆度の高温を作る。②圧縮機で高温の固まりを圧縮する。③膨張器で負のエネルギーを注入する。④差分器で時間差を作る。よし、これで完了! ……!? 詳しくは本に譲ります。
タイムマシンにまつわるパラドックスや懐疑論へのフォローもされている。例えば「いまの世の中に未来からの使者の痕跡がないのは、未来永劫タイムマシンなんてできないという証しではないか」という話はよく聞かれるが、ご安心。「タイムマシンが過去に戻れるのは、タイムマシンが完成された時以降の過去に限る」という理由で一蹴されるから。恐竜時代とか地球誕生のころとかに戻る路を断たれるのは残念だけど。