内容は第7章までの「理論編」、第8章から第13章までの「実践編」、その後の第21章までの「応用編」の3部構成になっている。本書は数式の説明に終始するものではないが、ディスカウンテッド・キャッシュフロー法はもちろん、「戦略の自由度」までも価値評価に織り込んだ最新のリアル・オプション法など、各論にも詳しい。第3版では、新たに保険会社や「エマージング・マーケット」を対象とした章が加えられ、さらに日本企業の価値評価について翻訳者グループが新たに書き下ろした章も含まれており、この本の価値をよりいっそう高めている。
全部で500ページを超える大部冊であるが、この種の本にありがちな気取りやてらいがなく、訳文は簡明で、どのページを開いても読みやすい。100を超える全米の大学でテキストに採用されているが、学生や研究者に限らず、フレームワークのしっかりした本書に好感を抱く人は多いに違いない。また、背景となる考え方が大切にされていて、たとえば財務指標よりも、先行指標たる「バリュー・ドライバー」から論述されているので、関心をかきたてられ、内容に引き込まれる。
ハイネケン社のケースをはじめとし、各種データや、数多くの豊富なチャートにも恵まれている。読者はあたかも、マッキンゼー社の洗練されたプレゼンテーションを受けている感覚で、企業価値の創造と評価にかかわる視野を広げ、専門性を深めていける。この分野にいくらかでも関心のある人にとって、本書を選ぶことに躊躇(ちゅうちょ)する理由は、いささかも見当たらないであろう。(任 彰)