『パワーエリートの本当の話』
★★★★★
小生は、本書が示している『アドミニストレーターズ』という「集団を仮定する」考え方が、あながち不当なものとはいえない、と判断している。それは、本書に示されている「アドミニストレーターズ」という集団を「シビリアン・コントロールの効かない、パワーエリートの集団」とするならば、その組織特徴は過去から在ると思われるからである。例えば、戦前軍部ともある種の共通性を感じ取れるし、さらに史料として残っている近衛文麿の政・官・財・マスコミによるブレーン集団「昭和研究会」(『昭和研究会』酒井三郎著 中公文庫 1992年など参照)との、親近性やメンバーの戦後のポジションなどである。また、軍部にしても、出身者のビジネス界などでの活動という点で見るならば、『沈黙のファイル―「瀬島龍三」とは何だったのか』共同通信社社会部編、新潮文庫、1996年などからも、感ぜられる。
これらと組み合わせてみると、先のような小生の判断に至ったわけである。
また、アドミニストレーターズによって示された戦略を「ビジネスモデル」として考えると―コントロールにより市場を含むシェア(占有)を利益よりも確立させる―、その先には昨今のマイクロソフトのように、エッセンシャル・ファシリティ(競争に不可欠な要素)を「押さえ尽くす」といった、調味料は異なるが古くからある「独占欲」に、新たな刺激と戦術を与えかねない要因にもなりうると思われる。
つまり、本書のもつ意義の中枢は、ビジネスを文化と文明の中にきちんと置いた論考を行っているということであり、それゆえ、さまざまな対象を読み解くための、要衝・結び目となっていることではないだろうか。
大いに推薦。