タイトル通り、世界を変えてみたくなる
★★★★★
最近、様々な社会問題の顕在化や公的部門の不機能が言われる中、CSR(企業の社会的責任)やNPOの重要性に注目が集まっています。
企業・ビジネスを通じた社会問題の是正については学生時代から関心があり、SRI(社会的責任投資)に対する関心から投資信託委託会社に転職したわけですが、その一方で、「企業が社会問題に貢献するといっても、実際に従事する人間のやる気を出したり、投資家へ説明するのは難しいし、企業のインセンティブは乏しいかも」「SRIなんて言っても、結局は値上がりしなければ売れないな」という疑念を持っていたりもします。
また、実際に様々なステイクホルダーとコミュニケーションをとりながら、できれば金融という枠組みの中で社会性・公益性の高い仕事をしたいという思いもあります。
そのような意識の中で留学も考えていたのですが、そんな中で出会ったのがこの一冊。
著者は財務省の官僚ですが、官民協同に深い関心を持ち、本書の中でも様々な官民協同の体験が掲載されています。
この本の一番のよさは、体験談であるということ。謙虚な視線と実体験から、ミクロな視線を通じて様々な示唆を与えてくれています。ケネディスクールの授業の様子や魅力もよく伝わってきます。
官民協同のあり方という関心事の一致や体験ベースの記載、そしてマクロとミクロの視点の交錯と、非常に面白い、読んでいて引きこまれる本でした。
これまでビジネス=MBAという視点で留学を考えていましたが、その点でも視野を広げてくれました。
既に大学院留学した人にも読んでもらいたい
★★★★★
「世界を変えてみたくなる留学」というサブタイトルを見てただの留学本(またはただの感想)だと思いました。
しかし実際読んでみると政策のケーススタディーやトップレベルの教授・学生の様子がよくわかりとても刺激されました。著者の姿に感動し積極的にがむしゃらに頑張ってみたいと思いました。
アメリカの大学院に行っても現地の人と同じくらい頑張っている日本人留学生はどれくらいいるのでしょうか。必死にインターン先を探したり、必死にボランティアをしたり(著者の場合ニューオーリンズの復興ボランティアをなさっています)普段の学校生活と変わらないほどがんばっているのでしょうか。もちろん私にこのように問う権利はありませんので、大学院に行っている方は自問自答してみるのがいいと思います。
著者は留学後アクションを起こしています(官民協働ネットワーク立ち上げ)。もし役人で国費を使って留学行っているなら成果を残してほしいです。
“自分を変えてみたい”、“未知の世界を知りたい”方に、「世界を変えてみたくなる」本書をおススメ!
★★★★★
著者の池田洋一郎氏は財務省の若手官僚で、ケネディスクールで学んだこと、並びに体験したことをblog(ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ)で随時更新していた。
国費(=税金)で留学し、多忙の中で自分のため、納税者の為(?)にblogを随時更新した点は素晴らしい。これだけでも留学生の模範たり得るが、blogで記述したものを1冊の本にまとめたのが本書である。
◎本書の構成
(1)プロローグ
・ケネディスクールを志したきっかけ
・入学までのプロセス
(2)講義ライブ
・パブリック・プライベート・パートナーシップ
・ソーシャル・マーケティング
・リーダーシップ
・フォーラム
(3)ボランティア活動
・ニューオーリンズ
・インド
・ケニア
(4)修士論文【PAE】
(5)エピローグ
・卒業式
・社会復帰に向けて
・ハーバードで得たもの
本書を通じて、著者が2年間を最大限に有効活用し、実り多き留学生活を過ごしてきたことがよく理解できた。そして、私が興味深く読んだ点はハイフェッツ教授のリーダーシップに関する項目である。
リーダーシップの教祖として有名なハイフェッツ教授は私も存じており、著書を1冊所有している。信者も多数いるハイフェッツ教授だが、在学中の著者は信者を冷ややかに捉えていた。
そのため、本書では客観的な視点からハイフェッツ教授の講義をライブ中継している。独特の講義展開とケーススタディ、個性溢れる特別講義の数々に、私は読めば読むほどハイフェッツ教授にはまり込んでしまった。
完璧に筋書きが完成されている講義とは異なり、ハイフェッツ教授の講義はアドリブがふんだんに散りばめられている哲学的な講義のように感じた。そのため、4章を読み終えると頭の中が真っ白になるかのような錯覚に襲われた。
そんな私の錯覚を埋め合わせるかのように、著者は終章(=10章)でハイフェッツ教授の特別講演をライブしている。以下に、卒業生が社会復帰する際にハイフェッツ教授がアドバイスした6項目を箇条書きする。
1.Reflectionの時間を持て
2.仲間を大切に
3.自己(Self)と役割(Role)を区別せよ
4.静かに戻れ(Re-enter Quietly)
5.自らの弱み(Vulnerability)と渇望(Hunger)を知れ
6.無理に計ろうとするな
私はリーダーシップに強い関心があるため、どうしてもハイフェッツ教授の項目が強く印象に残ってしまう。しかし、他の章も興味深い内容であり、サブタイトルの「世界を変えてみたくなる留学」があながち嘘ではないことを実感するだろう。
読み手により、本書の魅力は百花繚乱するだろう。“自分を変えてみたい”、“未知の世界を知りたい”方は、「世界を変えてみたくなる」本書を読まれることをおススメする。
誇りと信念と情熱の人
★★★★★
読んで感動した。
この人には誇りと信念と情熱がある。
スキルでもなく、知識でもなくこの本を読むことにより得られるものは筆者の誇りと信念と情熱に触れられることだろう。
そこから何かを感じることができると思う。
願わくばこのような志ある若き官僚が数年後天下りのポストを考え出したり、官庁に絶望しないことを。
この人は本物だと思う。
とてつもないエネルギー
★★★★★
エネルギーにあふれた著書である。その源は二つ。
一つは、著者自身である。
TOEIC450点から、忙しい仕事の合間を縫って英語等の勉強をし、留学を実現させ、
大学院で展開される授業や課外活動、インターン、ボランティアに果敢に飛び込み、
それぞれでかけがえのない経験を得る。
ハリケーンの被害にあい、今も絶望的な光景が残るニューオリーンズ、
ケニアにおける孤児とのふれあい、
インド農村部におけるマイクロファイナンスの実践、
社会企業家コモンインパクトとの修士論文執筆のためのコンサルティング、、、
どれも素晴らしい経験であり、本書は、これを著者の視点から追体験できる。
もちろん、著者自身が得た経験には及ばないが、それでも力を与えられる。
もう一つは、何より、ケネディスクール自体のエネルギー。
まず、ハイフェツ先生の、というリーダーシップ論の授業が強烈である。
権威とリーダーシップを分けないといけない、ということを教えるために、いきなり授業中、何もしなくなる。
コミュニケーションの大切さを教えるために、母国語でいきなりフレーズを朗読させる、等々、
ぶっ飛んだ方法の授業が展開される。
他にも、赤ちゃん用ベッドの事故、官民競争入札の手法、官民協働で再生するニューヨークの公園など、
様々な興味深いケースが、受講生達の熱い議論とともに、展開される。
豪華な顔触れのケネディスクールフォーラムも面白い。
本書は、非常にバランスのとれた視点で描かれており、著者の留学を、等身大で再体験できる。
留学に興味のある人、「公共」がいかに担われるべきかという問題に興味がある人は、
一読の価値があると思う。