エンロン破綻のニュースを耳にしたとき「アメリカの大きな会社が倒産したんだな」という感想を持っただけで、特に関心はなかった。日本企業の破綻報道には人ごとで済まされない切実さがあった。アメリカ巨大企業の倒産にもたくさんの悲劇があったはずだが、報道で目にしないので想像する機会もなかった。
本書を読んで、まず胸を突かれたのが2万人あまりの元社員を襲った老後資金の喪失であるエンロンの経営を信じていた社員の多くが自社株に401kを投資していたが、会社の破綻・株価暴落により老後の蓄えを失った娘のウェディングドレスも買えなくなった、ろくな治療も受けられず癌で亡くなった、という実例に言葉を失う。
しかも、経営危機が報じられる中で会社は401k口座を凍結した。一般社員が目の前で株価が急落するのを見ているしかない中で、エンロンの上級役員は自分達の株をしっかり売り抜けた。それは、まるで沈没しかけたタイタニック号から金持ち達が先に救命ボートに乗り、三等客室の出口が閉められる映画の場面さながらだ。
株式投資が盛んなアメリカでは「企業の経営状況が投資家に公開され、各付機関の独自調査や監査法人がその内容をチェック・裏付けする」ことになっていた。ところが、超優良企業のエンロンが、実は嘘八百の会計報告で株価をつり上げていた各付機関はエンロンの嘘を見抜けず、監査法人はエンロンの嘘に荷担していた、というのだから何をか言わんや。エンロンの破綻はアメリカ資本主義を脅かす大きな事件になった。
本書では、最高幹部たちの生い立ちや人物像にも言及し、カリフォルニアの電力危機、エンロンに続くワールドコム破綻などのトピックも取り上げ、エンロン破綻と関連事件の全貌を明らかにしてくれる。
それにしても「グローバルスタンダード」と呼ばれているアメリカ経済のしくみが、こんなにもいい加減なものだったとは。