既に「数量化」「視覚化」を前提とした現代に生まれた小生ゆえ 「当たり前」であることが 実は「革命」であったという本書は 目からうろこが落ちる思いである。歴史の本を読む楽しさの一つは 自分が持っている常識が いかなる経緯で常識となっていったのかが分かる点であると思っている。
また 本書の特色としては 数学、音楽、絵画、会計という 現代人から見ると全く異なる世界を 横串で突き刺し それらが誕生した際にあった共通の心性を見事に炙り出している点にある。会計と音楽を貫く時代の精神がかつてあったという点は 「現代会計入門」とかいう本をたまに読まざるを得ない サラリーマンたる小生にしても 一服の清涼感である。音楽を聴くように会計を勉強すればよいのだ。
仕事に直接関係ない本を読むことは 気分転換になるし 勉強にもなる。しかし それ以上に 特に このような本を読んでいると 日々の仕事に潜んでいる 歴史、人間の「精神」が見えてくることがある。そうなると仕事も馬鹿にできない。仕事の先に見えてくる「精神」。そんなものも信じているのが若干楽観的な小生ではある。
最近数年間、自分たちの仕事を「数量化」し「視覚化」することに取り組んできました。仕事のパフォーマンスを第三者に理解できるように求められ、その結果、「数量化」と「視覚化」に行き着いたわけです。しかし、一方で、これらの方法が常に説明として最も優れているわけではないことも感じていました。説明のわかりやすさは、文化的な背景や前後の経緯によって違ってくるはずです。ただ、多くの人々の理解を得たうえで、米国流マネジメント手法が前提の経営者層に説明を行うには、この方法がベストだという判断でした。
本書のタイトルと紹介をアマゾンで見たとき、当時整理し切れなかったテーマをストレートに扱っているのではないかと思えました。西欧諸国が現在の「数量化、視覚化ワールド」に切り替わった契機と進行を追体験できるという期待が膨らみました。
実際に読んでみて、数字、暦、機械時計、地図、貨幣、楽譜、遠近法、複式簿記といった実例の数々の説明で、1300年前後のパラダイムシフトが理解できたと思います。その数百年後の、産業革命を支えた革命の一つなのだと理解しました。
そして、「数量化」という結果を覚えることと、「なぜそういうパラダイムシフトが起きたのか」「他にはどんな可能性があったのか」という結果が生まれるプロセスを学ぶことの違いの大きさ。これまで、「ゲーデル,エッシャー,バッハ―あるいは不思議の環 ダグラス・R・ホフスタッター (著)」や「ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く アルバート・ラズロ・バラバシ (著)」を読んだときと同じ感覚でした。この本をまとめあげるために作者が費やした労力と、読んだであろう本・資料の数、それを編集する時間を考えると気が遠くなる思いですが、後世に残す知的財産としての価値は計り知れません。
おかげで、オカルト的な中世から科学主義の近世への扉が開かれたが、こうした偉業を成し遂げたのは、最下層の職人的な人材であった。
なるほど、そうか! 目から鱗、西洋の中世から近世への移行できたことがよくわかる。こんな歴史学の講義が聞けるアメリカの学生は幸せである。