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ヘブンズ・コマンド―大英帝国の興隆(上)

価格: ¥240
カテゴリ: 単行本
ブランド: 講談社
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学校の歴史では習わない世界史が見えてきます ★★★★☆
黒人奴隷と言えばアメリカ、と連想しますが、本当はイギリスの方がずっと長い歴史があって
アメリカが奴隷を使い始めた頃にはイギリスはそれを卒業していたということのようです。
南アも1600年代にオランダ人が入植していたとか今まで考えたこともないようなことがいろいろわかりました。
少々意外だった大英帝国 ★★★★★
面白かった。

ジャン・モリスの大英帝国3部作のうち、ヴィクトリア女王即位1837年から大英帝国の頂点となる即位60周年までの大英帝国の隆盛期を描く第1部の前半。1850年ごろまで。しかし、そうすると、第1次世界大戦後には衰退に向かうわけだから、大英帝国の絶頂期はたかだかひと世代半ぐらいしか続かなかったことになる。意外に短い。あっという間だ。

わしはある意味イギリスに尊敬というか畏怖というかそういうものを感じる者だが、しかし、この本を読む限り、イギリス人が文明人という感じはあまりしない。むしろ野蛮で、気分が悪くなる。イギリスが発展したのは国民がどうしたというより、テクノロジーを握ったことの方が大きかったということではないだろうか。

大英帝国だから世界中が舞台になる。例えば最初の話は南アフリカだったりする。喜望峰がインド航路の中間点にあるからイギリスが支配しているわけで、東インド会社関係の人や軍人がここに別荘を作ったり、引退後に住み付いたりしている。映画ガンジーは若き弁護士ガンジーの南アフリカでの姿から始まるが、なぜ南アフリカなのかやっと分かった。ここで自由を求めて入植したオランダ系の人たちと争ったりする。

世界中で事件が起こるわけだが、もっとも気分が悪くなる事件はイギリスに最も近いところで起こる。アイルランド飢饉の話だ。すぐお隣さんだったのに、アイルランドで飢饉が発生したときイギリスはまったく無視して、人口800万人のうち実に100万人が死んでしまう。遠くの国で自国民が巻き込まれた事件には敏感に反応するが、すぐ目の前で他人が死んでいくことには鈍感だったわけだ。これは人間の性(さが)なのかもしれない。(例えば、日本統治下の朝鮮半島や中国で飢饉が起きたとき、日本人がどれだけ彼らに同情したかは疑わしい)。だからイギリスだけを責めるわけにはいかないかもしれないが、読んでいて気分が悪くなり、胃がちくちく痛みを訴えてきた。まあ、それだけ作者の文章がすばらしいということでもある。アイルランドがそれまで移民を出していないということもはじめて知った。そんな国を愛している国民が大量に国を捨てて脱出していく様は哀れとしか言いようがない。

一方で帝国の各地で活躍した軍人、行政官がアイルランドの支配層のイギリス人(アングロアイリッシュ)が多いという事実も興味深い。概して、本国のイギリス人は国内のことに夢中で、外の世界には興味が薄かったようだ。アングロアイリッシュの人たちには、世界の僻地へ行って何かを成し遂げないと満たされないものがあったに違いない。

作者のジャン・モリスは米英で人気の歴史紀行家なんだそうで、簡潔な文章でまるでそこにいて見て来たかのように書いている。1926年生まれで、かろうじて大英帝国に間に合った。よく分からないのは、1970年代に性転換して女性になったらしいが、50歳前後で性転換に踏み切ったことになり、ちょっと興味深い…が、まあ、どうでもいいことではある。