国別の文化の違い
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IBMの全世界(50カ国以上)のオフィスを対象として国別の文化の違いを抽出した本です(原著初版1991年)。
上記の調査結果と、関連する様々な調査結果を踏まえて、以下の4つの次元で国別の文化の違いを表すことができるとしています。
・権力格差の大きさ(日本は中程度)
・個人主義⇔集団主義の程度(日本は中程度)
・男性らしさ⇔女性らしさの程度(日本は最も男性らしさが高い)
・不確実性の回避の強さ(日本は高程度)
また上記視点が西洋的であり、東洋的な視点が欠けているのではないか、として、別の調査によって以下の次元も抽出しています。
・徳の高さ(日本は高程度)
更にこれらの次元を組み合わせながら、国毎の特徴を整理しています。
そのうえでマズローやハーツバーグ等の欲求理論について、文化が異なる国では欲求因子の重要性は自ずと異なるとし、彼らとて自身の属する文化の影響を強く受けていることを指摘し、闇雲に活用すべきではないと警鐘を鳴らしています。
加えて、組織文化についても解説しています。
組織文化については、別の調査によって以下の6つの次元を抽出しています。
・過程志向⇔結果志向
・社員志向⇔仕事志向
・所属主義的(組織に存在理由)⇔専門的(職種に存在理由)
・開放的⇔閉鎖的
・コントロールが緩い⇔きつい
・現実主義的⇔規範的
またこれらの次元の内、組織モデルそのものに起因する要素が、ミンツバーグの提唱したマネジメント理論における要素と整合していることを見出し、大きくアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、中国の文化の特徴によって類別できることを指摘しています。
更に組織文化を変革する際の留意点を指摘しており、昨今の企業変革に活用できる知見も提供しています。本書には引用されていませんが、エドガー・シャインが提唱している組織文化変革の方法に近いものがあります。
但し、国別の文化の多様性が価値観の違いであるのに比べて、組織別の文化の違いが価値観が生み出す慣行の違いであり、組織間の違いは表層的なものである、と結論付けていることについては、組織間の違いを過小評価していると思われます。
以下のような企業のの生成過程が調査に盛り込まれていないので、次元として現れてこなかったのだとも思えます。
・価値観と慣行は一方通行ではなく、価値観が慣行を生むと同時に、慣行が価値観を生むことはありえるでしょう(慣行が価値観を生まなければ組織のハード面を変えても文化は全く変わらないことになる)。
・国別の文化多様性が上記次元で説明できたとしても、それはあくまでも一般的なものであり、その国に住んでいる人たちの個人差は十分にあり(例えば、IQの分散は、人種間の違いよりも人種内の個人差の方が大きいという研究結果がある)、企業が人を採用・評価する際には自分たちの文化に適合する者をより優遇することから、同じ国、同じ文化においても企業間で文化が異なることは十分にありえるでしょう。
・組織は市場競争下において独自化・差別化しようと必死になっていますので、競争相手と違うことを少しでも行おうとし、その結果として文化が異なってくることも十分あり得るでしょう。
・また最近のM&Aにおいて、同一国内・同一産業内においても、成否を決める重要な要素の一つに文化の不整合が挙げられていることから、確実に文化差はあるでしょう。
著者が述べているように、組織別の文化差は国別の文化差よりも小さく、また組織別の文化差は、年齢・学歴・性別の違いが大きい、ということは確かにあるのでしょうが、上記からは更に様々な違いが出てくるでしょう。
以上のように、組織間の文化の違いについては課題と思われるものがあるものの、国別の文化の違いについては、非常に有益な視点を与えてくれますので良書であることには間違いありません(ので、評価は下げませんでした)。
必要不可欠な一冊
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「文化ってなんだろう」と考えていたときに読みました。目から鱗が落ちる一冊です。特に、「人間の価値観は12歳までに形成される」という指摘は、異文化に属する人々を受容し、共生していくための、心と思考の準備のスタートラインともなる言葉です。自分自身の異文化体験の途上でこの本を読み、思考が整理されました。
「文化を比較する」ことは、非常に難しい作業であると思いますが、ホフステードは5つの価値観を見出すことで、その難しい学術作業を成し遂げたと思います。
文化差異の整理・研究には不可欠な1冊
★★★★☆
大学院の研究課題で異文化(海外)の中での理想的なマネジメントを追求する際に避けて通れない文化の壁が出てきました。海外で活躍するビジネスマンがよくぶつかる当地文化の壁、理解できない行動、言動・・・。これらがどこから来るのか、どう整理すれば納得いく説明がつくのか云々。この本は文化を5つのダイメンションに分けて明解に分析されています。色々な文化関係の本が出ていますが、これは海外赴任後の駐在員がぶつかる異国文化の壁を科学的に整理することができ、特に2国間、多国間の文化比較の学術研究書としても最も理解しやすいと思います。
多様性を理解する有効な切り口を与えてくれる
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各国の国民文化の違いを『五つの次元』で分類し説明している。この『五つの次元』は、例えば、権力格差の容認度、不確実性の回避度、等、である。これらの軸で整理することで、アメリカ、日本、ヨーロッパ、東南アジア各国などの行動特性の違いが良く理解できる。
海外からの訪問者の増加、企業活動のグローバル化の進展、などにより、我々日本人にも文化の多様性を理解し行動することが益々求められている。この多様性の理解を助けるためにもぜひとも読みたい一冊である。