いまや死語の感がある「愚連隊」という言葉。よく暴力団や任侠集団、テキヤと混同されるようですが、多くは組織に属さず少数で行動していたと言われる暴力集団のことです。アウトロー関連の第一人者である山平重樹氏による書です。

ここでは戦前から戦後の動乱期のヨコハマで、跳梁跋扈した多くの「愚連隊」の生きざまを描いた列伝形式をとっています。タイトルにもなっている「モロッコの辰」とはヨコハマに実在した愚連隊のことで、もちろん本名ではなくあくまでも通名。この「モロッコの辰」なる人物を中心にして、数え切れないほどの喧嘩、諍い、略奪、抗争が描かれています。いわばアウトロー物の真骨頂という趣の本書ですが、読了後の印象はかえって清清しい空気すら漂います。というのも、暴力を日常とする愚連隊でありながら、「モロッコの辰」をはじめとした登場人物は実に人間臭い魅力をふりまいていて、いまでは忘れ去られつつある義理と人情、そして仲間同士の強いつながりが色濃く感じられるからです。

開戦、そして敗戦後の動乱期に腕1本と悪知恵で逞しくも生き抜いた男たちが発散するはちきれんばかりの若きエネルギーに圧倒されながら、あっという間に読んでしまいます。またヨコハマを舞台にしていることから、文中に頻繁に登場する伊勢佐木、鶴見、蒔田、大田、山元町、日之出町、黄金町などの地名を脳内マップで反芻しながら読み進めるという愉しみも。「裏」ヨコハマの歴史を知るうえでも貴重な資料になるはずです。最終章では、「モロッコの辰」の最後の舎弟といわれた今は亡き民族運動家、野村秋介氏の傍若無人な若き姿も描かれています。

本書は「修羅の群れ」や柳葉敏郎主演で映画化されたそうですが、柳葉敏郎のほうは悲しいかなＤＶＤ化されていないようです。