ホンダは本田宗一郎と藤沢武夫という二人の傑出した創業者が創り上げた企業だが、経営全般を司った藤沢武夫の哲学は、「万物流転の法則」というものだった。万物は流転し、大きな企業が永遠に大きくありつづけることはできない。だから創業期のホンダも、大きな企業の衰退とともにビジネスチャンスがある、というのがこの哲学である。しかし大企業になったホンダは、万物流転の法則に飲み込まれてしまうのではないか。。。
物語は、この藤沢武夫の懸念を大きな軸として回転する。法則に飲み込まれようとするホンダ、そしてそれを回避せんとする必死の努力。業績だけを見ればホンダは苦しい場面が続く。それを周りがなんやかんやと言うのは容易だが、本書のすごさは、「なぜホンダの後継者たちが、そのような意思決定をしたのか?」というディテールがごくごく自然に描かれていることである。本書のバックに、目に見えない膨大な取材の蓄積を感じさせるシーンである。
本書はまた、すでに神話化された本田宗一郎と藤沢武夫の関係を、完全にひっくり返してくれる。二人は巷間で言われているほど、尊敬し、愛し合っていたのか?いやむしろ、Love&Hateの関係であり、ライバルとして意識しあうことのほうが大きかったのではないか。はっきりいえば、ホンダにいいイメージしか持っていなかった私には、その暴露はショッキングだった。しかし本書の読後感は、その人間臭い関係を知ったこととあいまって、あくまで爽やかだった。
とても、興味深い本だと思うので、年に一度は読み返すことにしている。